脳の障害
高次脳機能障害の等級と金額|医師監修記事・労災被害者専門の弁護士法人小杉法律事務所

労働災害(以下「労災」といいます。)は、業務上の事由又は通勤により発生した災害のことをいいます。業種によって程度の差はありますが、重量物を取り扱ったり機械を使用したり、高所で作業する等、日常生活とは大きく異なる環境下で作業することも往々にしてあるため、労災による傷病の程度もより重いものとなる傾向があります。
本稿では、労災によって高次脳機能障害を後遺症として残存するに至った場合に、労災保険で認定される可能性がある等級や、補償されうる金額について解説しております。
なお、医学的事項につきましては、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)にご監修をいただいております。
高次脳機能障害とは
⑴そもそも「高次脳機能」とは?
「高次脳機能障害」と聞いたとき、何となく重そうな障害であることはイメージできても、その具体的な内容についてはよく知らない人もまだまだ少なくないのではないでしょうか。そのため、言葉の意味をまずは見ていきましょう。
「高次脳機能」とは、言語、行為、認知、記憶、注意、判断など、人間が社会生活を営む中で学習し身につける機能を意味します。すなわち、言語を覚えて他者とコミュニケーションをとったり、空間や対象を認知したり、事柄を記憶したり、スケジュールを組み立てて実行したり、周囲の事物に注意を払い危機管理を行ったり、論理的に思考したり等の、生来体得しているものではなく、社会で成長する中で徐々に育まれてくる力のことです。これに対して、生き物として生きていくにあたり不可欠な、生命の基本を司る基本的脳機能のことを低次脳機能といい、「食べる」、「飲む」などの生命維持に欠かせない機能はこちらに含まれます。
⑵高次脳機能障害とは
前述の高次脳機能の意味が分かれば、高次脳機能障害とはどのような障害であるかもおのずと見えてきますね。高次脳機能障害は、頭部外傷や病気等を原因として脳に器質的病変を来したことにより生じる、言語・行為・認知・記憶・注意・判断などの機能についての障害ということです。
高次脳機能障害は、脊髄損傷等のように目立った身体障害が生じることは多くなく、外見的に障害が目立ちにくいため、「みえない障害」と呼ばれることもあります。くわえて、事故直後にすぐに症状が現れるというよりは、日常生活において次第に症状が現れてくることが多いです。そのため、症状が現れて始めてから高次脳機能障害と診断されるまでにタイムラグが生じることもままあります。
⑶高次脳機能障害の「行政的」定義
これまでに示した高次脳機能障害の定義は、学術的定義(医学における定義)になります。
他方、厚生労働省が示す高次脳機能障害の診断基準によれば、「行政的」定義における高次脳機能障害は以下2点を主要症状とするものであるとされています。
①脳の器質的病変の原因となる疾病の発症や事故による受傷の事実が確認されている
②現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である
これより、高次脳機能障害の診断にあたっては、脳自体(物理的意味での)に何らかの異常があることが必要とされているものといえます。
また、厚生労働省によれば、高次脳機能障害者は推計約23万人存在するとされており、適切な支援が受けられない現況にあるとされています。そうした状況を改善するため、高次脳機能障害者支援法が令和8年4月1日に施行され、高次脳機能障害者の生活全般にわたる支援を推進する動きが推し進められています。
高次脳機能障害の症状

脳外傷による高次脳機能障害について、原因になる脳外傷は局所性脳損傷かびまん性脳損傷のいずれかです。
なお、びまん性軸索損傷は、びまん性脳損傷の中でも重症な損傷態様の一つであり、軸索という神経線維の損傷を広範囲に伴うものを指します(詳しくは後述しております。)。
⑴局所性脳損傷による巣症状
| 失語 | 脳の損傷が原因で、読む・書く・話す・聞くなどの言語機能が失われた状態です。前頭葉と側頭葉が関連します。 |
| 失行 | 運動麻痺や感覚障害がなく、記憶等も問題が無いにも関わらず、日常生活の様々な行為が損なわれます。頭頂葉が関連します。 |
| 失認 | 目は見えていて感覚に問題が無いにもかかわらず、眼に見たものを認識できない等の症状が生じます。側頭葉や後頭葉の損傷で生じます。 |
⑵びまん性軸索損傷による症状
| 記憶障害 | 昔のことが思い出せない、新しいことを覚えることができないなどの状態です。主な病巣は海馬などの大脳辺縁系と言われます(大脳辺縁系は脳の内側にありますので上のイラストに記載ありません。)。 |
| 注意障害 | 物事に集中できない、集中する持続力が低下する、周りに注意が払えないなどの状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。 |
| 遂行機能障害 | 物事を行うための段取りが悪かったり、臨機応変な対応ができず(こだわりが強くて予定外のことに想定できない)、物事をスムーズに行うことができない状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。 |
| 社会的行動障害 | 易怒性(すぐに怒る)、意欲がわかない、特定のものに固執するなどして社会でうまく生きていくことが阻害される状態です。主な病巣は前頭葉の前頭連合野と言われます。 |
日常生活における具体的症例としては、今朝の朝食の内容を思い出せない(記憶障害)、仕事や作業に集中することができない(注意障害)、計画が立てられなくなる(遂行機能障害)、言葉を上手く話すことができなくなったり人の話が理解できなくなった(失語症)、お箸や歯ブラシの使い方が分からなくなった(失行症)、左側になるおかずが目にとまらず残すようになった(左半側空間無視)などが挙げられます(参考:「高次脳機能障害者地域支援ハンドブック」(改訂第五版))。
なお、高次脳機能障害は労災等の頭部外傷で生じることがありますが、必ずしも外傷を原因として発症するとは限りません。
たとえば、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血等のような通常は頭部外傷とは無関係に発症しうる脳血管障害や、脳腫瘍、脳感染症など、脳に損傷や機能異常をきたすものであれば、いずれも高次脳機能障害の原因となりえます。
また高齢者の場合、既往症に何らかの高次脳機能障害を示す疾患があり、その後に頭部外傷を負うことや、その逆も考えられ、高次脳機能障害に対する頭部外傷の影響がどこまでなのか悩ましいケースもあります。
高次脳機能障害にて認定されうる後遺障害等級

脳外傷による高次脳機能障害について、労働者災害補償保険(以下「労災保険」といいます。)に関する法令である労働者災害補償保険法に示される等級のうち、認定される可能性がある等級を整理すると以下のようになります。
労災保険における高次脳機能障害の等級認定は、「高次脳機能障害」(器質性精神障害)と「身体性機能障害」(神経系統の障害)に区分した上で、「高次脳機能障害」の程度、「身体性機能障害」の程度及び介護の要否・程度を踏まえて総合的に判断されることとなります。すなわち、高次脳機能障害と身体性機能障害を独立別個の障害として評価するのではなく、両者を併せ全体病像として後遺障害等級を定めるということですね。
身体性機能障害と高次脳機能障害の両方が発生することもありえますが、その場合はそれらの障害による就労制限や日常生活制限の程度に応じて総合的に等級判断がなされます。
また、脳損傷により神経局所損傷(巣症状)(中枢神経系)が引き起こされて感覚器などに障害を生じる場合もあります。これも「高次脳機能障害」とは別の病態ではありますが、該当する等級があるときはその等級を認定が認定されます。
| 第1級の3 | 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」をいい、「身体機能は残存しているが高度の痴ほうがあるために、生活維持に必要な身のまわり動作に全面的介護を要するもの」もこれにあたります。 |
| 第2級の2の2 | 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」をいい、「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」がこれにあてはまります。 |
| 第3級の3 | 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」をいい、「自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの」がこれに該当します。 |
| 第5級の1の2 | 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」をいい、「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」がこれに該当します。 |
| 第7級の3 | 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」をいい、「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」がこれに該当します。 |
| 第9級の7の2 | 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」をいい、「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」がこれに該当します。 |
労災保険の等級認定システム
⑴評価の着眼点
労災保険における「高次脳機能障害」の等級認定では、4能力に係る喪失の程度により評価が行われます。
評価を行う4能力とは、「意思疎通能力」・「問題解決能力」・「作業不可に対する持続力、持久力」・「社会行動能力」の4つになります。
①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定されます。
・記銘力、記憶力
・認知力
・言語力
②問題解決能力(理解力、判断力等)
作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるかどうかについて判定されます。
・理解力
・判断力
・集中力(注意の選択等)
③作業負荷に対する持続力、持久力
一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定されます。
・精神面における意欲、気分又は注意の集中の持続力、持久力
・意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感
④社会行動能力(協調性等)
職場において他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定されます。具体的には次のようなものです。
・協調性の有無
・不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロールの低下による場違いな行動等)の頻度
なお、ここでいう労働能力とは、労災保険上では、一般的な平均的労働能力をいうものとされており、被災労働者の年齢、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的諸条件については障害の程度を決定する要素とはなりません。
高次脳機能障害における等級認定のポイント

労災保険における脳外傷による高次脳機能障害の等級認定判断のポイントは次の3つが考えられます。
⑴交通外傷による脳の損傷を裏付ける画像検査結果があること
⑵一定程度の意識障害が継続したこと
⑶一定の異常な傾向が生じていること
これらを総合考慮して、脳外傷による高次脳機能障害として等級認定できるか否か、認定できるとして程度は「等級として何級なのか」が判断されます。
最も重視されているのは1の画像所見の有無です。
⑴交通外傷による脳の損傷を裏付ける画像検査結果があること
高次脳機能障害の原因になる脳損傷には、局所性脳損傷とびまん性脳損傷があります。
局所性脳損傷は脳挫傷や各種頭蓋内出血(脳内血腫や急性硬膜下血腫など)を指します。
びまん性脳損傷は、外傷後より意識障害などの症状があるにも関わらず、頭部CT画像上、脳を破壊もしくは圧迫するような出血(局所性脳損傷)が明らかではない点に特徴があります。
→脳挫傷についてはこちらの記事で整理しております。(準備中)
→急性硬膜外血腫はこちらの記事で整理しております。(準備中)
→びまん性軸索損傷についてはこちらの記事で整理しております。(準備中)
①撮影方法
CTやMRI画像での経時的観察による脳出血(硬膜下出血、くも膜下出血などの存在とその量の増大)像や脳挫傷痕の確認があれば、外傷に伴う脳損傷の存在が確認されやすいです。
CTで所見を得られない患者について頭蓋内病変が疑われる場合は、CTよりも多くの情報を得られるMRI画像の撮影を早期にすることが望ましいとされています。
また、受傷後時間が経過した場合には、それでも鋭敏に微細な出血痕等を描出することができるMRIのSWI撮影により確認することができる可能性があります。
もっとも、どのような検査を行うか、また画像診断の方法等については、担当医の方針によって異なる面もありますので、医師の判断に委ねたほうがよいのではないかと思います。
→外傷性硬膜下血腫についてはこちらの記事で整理しております。(準備中)
→くも膜下出血についてはこちらの記事で整理しております。(準備中)
②画像所見の評価
撮影方法は上記のとおりですが、局所性脳損傷の場合はともかく、びまん性軸索損傷についてはこれらの撮影結果のみで発症を確認することは困難であり、あくまで補助的な診断にとどまります。
びまん性軸索損傷の病態は、「外傷によりミクロレベルで脳細胞間の情報伝達を行う軸索(神経線維)が断裂して機能障害をきたしている状態」だと考えられていますが、ミクロレベルの軸索の断裂それ自体を現在の画像撮影技術で撮影することが困難だからです。
③新しい画像検査について
近時、CT、MRI以外に脳外傷の発生の有無を確認するものとして、SPECT検査、PET検査、拡散テンソルMRI、MRS等の新しい画像検査が現れています。
ただ現在のところ、CT、MRI以外の画像検査につき、外傷性脳損傷の発見の性能についての評価が固まっている状態ではなく、労災保険での審査においては「補助的な検査方法として参考になる場合がある」という程度の扱いにとどまるものと考えられます。
⑵一定程度の意識障害が継続したこと
脳外傷による高次脳機能障害は、一般に、意識障害を伴うような頭部外傷後に起こりやすいとされています。意識障害は、事故に伴う脳損傷の場合は事故直後から発生することが多く、頭蓋内血腫や脳腫脹など脳がむくんでしまうような病態の場合は、事故から一定期間経過後に発生しやすいと言われています。
以下では、意識障害の評価指標として非常に有名な2つを紹介いたします。
①JCS(Japan Coma Scale ジャパン・コーマ・スケール)
JCSは、日本において用いられている意識障害の評価指標をいいます。
覚醒の程度によって、Ⅰ(1桁)、Ⅱ(2桁)、Ⅲ(3桁)の三段階に大きく分け、さらにそれを3段階に分けます。
点数は「Ⅱ-20」、「Ⅲ-100」などと表記します。健常者(意識清明)は「0」と表記されます。
点数が高いほど状態が悪いということになります。
Ⅰ:刺激しないでも覚醒している状態
| 0 | 意識清明 |
| 1(Ⅰ-1) | 意識清明とは言えない |
| 2(Ⅰ-2) | 当見識障害がある |
| 3(Ⅰ-3) | 自分の名前、生年月日が言えない |
Ⅱ:刺激すると覚醒
| 10(Ⅱ-10) | 普通の呼びかけで容易に開眼する |
| 20(Ⅱ-20) | 大きな声または体を揺さぶることにより開眼する |
| 30(Ⅱ-30) | 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する |
Ⅲ:刺激しても覚醒しない状態
| 100(Ⅲ-100) | 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする |
| 200(Ⅲ-200) | 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる |
| 300(Ⅲ-300) | 痛み刺激に全く反応しない |
②GCS(Glasgow Coma Scale グラスゴー・コーマ・スケール)
GCSは、主に海外において用いられている意識障害の評価指標のことです。
開眼機能(E)、言語機能(V)、運動機能(M)の3要素に分けて意識状態を指標化し、合計点数により評価します。
合計点は「7(E1 V2 M4)」などと表記します。健常者だと15点(満点)、最低点は3点です。
点数が高いほど状態が悪いということになります。
開眼(E:eye opening)
| 自発的に開眼 | 4 |
| 呼びかけにより開眼 | 3 |
| 痛み刺激により開眼 | 2 |
| なし | 1 |
言語(V:verbal response)
| 見当識あり | 5 |
| 混乱した会話 | 4 |
| 不適切な単語を使う | 3 |
| 無意味な発声 | 2 |
| 発語が無い | 1 |
運動機能(M:motor response)
| 指示に従う | 6 |
| 痛み刺激の部位に手足を持ってくる | 5 |
| 痛みに手足を引っ込める(逃避屈曲) | 4 |
| 痛みに上肢を異常屈曲させる(徐皮質姿勢) | 3 |
| 痛みに上肢を異常伸展させる(徐脳姿勢) | 2 |
| 全く動かない | 1 |
⑶一定の異常な傾向が生じていること
脳外傷による高次脳機能障害の残存を疑わせる異常な傾向(多彩な認知障害、行動障害および人格変化や身体障害(起立障害・歩行障害、痙性片麻痺))が、頭部外傷を契機として発生していることが必要になります。
人格変化と身体障害を除く異常な傾向については、神経心理学的検査で一定の評価が可能であるとされており、逆に言えば、人格変化は家族や同僚など、被災者の周囲にいる人しか気づけない或いは気づきにくい症状だと言えるでしょう。
代表的な神経心理学的検査
| スクリーニング
(高次脳機能障害がありそうかどうかの選別) |
ミニメンタルステート検査(MMSE) |
| 改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) | |
| 知能 | WAIS-Ⅲ |
| コース立体組み合わせテスト | |
| 注意 | 標準注意検査法(CAT) |
| Trail Making Test(TMT) | |
| BIT 行動性無視検査(BIT) | |
| 注意機能スクリーニング検査(D-CAT) | |
| 遂行機能 | 遂行機能障害症候群の行動評価(BADS) |
| ウィスコンシンカード分類検査(WCST) | |
| Frontal Assessment Battery(FAB) | |
| 記憶 | ウェクスラー記憶検査(WMS-R) |
| リバーミード行動記憶検査(RBMT) | |
| 三宅式記銘力検査 |
高次脳機能障害における等級認定申請時に必要な資料とは?
労災保険では、高次脳機能障害の等級認定にあたり、労働者災害補償保険診断書(以下「障害診断書」といいます。)の他に、次のような資料が基本的に求められる運用となります。基本的には労働基準監督署が認定調査の過程において関係各所に作成の依頼をかけるかたちになりますが、予め申請者が準備して障害(補償)等給付支給請求に臨むことも可能です。
⑴「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」
障害診断書の傷病名欄等に、頭部外傷又は脳血管疾患等による高次脳機能障害が想定される障害が記載されている場合については、主治医に対して「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」の作成を求めることとなります。
⑵「日常生活状況報告」
「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」と同様に、高次脳機能障害が想定される障害が障害診断書上に記載されている場合には、家族(或いは家族に代わる介護者)に対して「日常生活状況報告」の作成が求められます。なお、「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」と「日常生活状況報告」の内容が著しく異なる(辻褄が合わない)場合には、労働基準監督署において再度必要な調査が行われることとなります。
受傷前と受傷後の日常生活の能力・程度、問題行動の頻度、家庭・地域社会・職場・学校などにおける日常の活動状況や適応状況、これら症状が社会生活・日常生活に与える影響、事故前後の生活状況の変化、現在支障が生じていること、就労・就学状況、身の回り動作能力、声掛け、見守り、介助が必要な理由、それらの内容、頻度を具体的に記載していただくことになります。
⑶診断内容と資料との整合性について
前述のとおり、労災保険における高次脳機能障害の等級認定にあっては、「高次脳機能障害」の程度に加えて「身体性機能障害」の程度及び介護の要否・程度をも踏まえて総合的に判断されることとなります。
このとき、身体性機能障害の最たるものである麻痺につき、麻痺の範囲と程度は、身体的所見及びCT、MRI等の画像所見により裏付けられることが必要とされています。そのため、「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」に記載されている麻痺の性状及び関節可動域の制限等の結果と麻痺の範囲と程度との間に整合性があるか否かを確認し、必要に応じて調査を行われることとなります。交通事故での自賠責保険と異なり、労災保険の障害(補償)等給付支給請求の等級認定調査においては、基本的に被災労働者と労働基準監督署調査官(及び労働基準監督署の医員)との来署面談が行われますので、身体的所見が確認されることもあるでしょう。
労災保険で高次脳機能障害の等級が認定された場合の保険給付は?
労災保険における障害(補償)等給付は、3つの給付により構成されています。
それが、下表に示すものであり、⑴障害(補償)等給付、⑵障害特別支給金及び⑶障害特別年金(又は障害特別一時金)の3つです。
→「給付基礎日額」と「算定基礎日額」とは?どのように違うのか?についてはこちらで解説しております。

⑴障害(補償)年金 または 障害(補償)一時金
労災保険における障害(補償)等給付の本体といえる部分になります。
表のように、給付基礎日額×等級に対応した日数を乗じて支給額が決定されます。
なお、第1級~第7級が認定された場合は障害(補償)年金が、第8級~第14級が認定された場合には障害(補償)一時金が支給されます。
高次脳機能障害で認定される可能性がある等級は、1級、2級、3級、5級、7級、9級ですので、たとえば1級が認定された場合は給付基礎日額×313日分の金額が年金というかたちで1年間に支給されることとなりますし、9級が認定された場合には給付基礎日額×277日分の金額が一時金というかたちで支給されます。
⑵障害特別支給金
障害特別支給金は、障害(補償)給付に上乗せするかたちで支払われる支給金であり、等級認定時に一度に限り支払われます。
障害特別支給金の金額は等級に応じて固定額が規定されており、たとえば3級が認定された場合は障害特別支給金として300万円が支払われることとなります。
⑶障害特別年金 または 障害特別一時金
労災事故直前の一年間に賞与が支払われていた場合には、かかる賞与額を基に算出された算定基礎日額×等級に対応した日数を乗じて障害特別年金又は障害特別一時金の支給額が算定されます。
障害(補償)年金/障害(補償)一時金と同様に、第1級~第7級が認定された場合は障害特別年金が、第8級~第14級が認定された場合には障害特別一時金が支給されます。
高次脳機能障害にて等級認定を受けた場合の損害賠償金額は億単位になることもあります

弁護士小杉晴洋
上記表にて説明した労災保険の障害(補償)等給付というのは、あくまで最低補償の金額であり、労災にて高次脳機能障害の後遺障害を残してしまった場合の損害賠償金額としてはおよそ十分な額とはいえません。
弁護士法人小杉法律事務所では、高次脳機能障害に関する多くの案件を解決してきており、億単位の解決事例や、裁判例・新聞・専門誌に掲載された解決事例が数多くございます。
労災などで高次脳機能障害となってしまったという方については、無料の法律相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
高次脳機能障害の損害賠償金額を高める上で注目すべき損害賠償費目について

上記表にて説明した労災保険の障害(補償)等給付というのは、あくまで最低補償の金額であり、労災にて高次脳機能障害の後遺障害を残してしまった場合の損害賠償金額としてはおよそ十分な額とはいえません。
そのため、労災の相手方(基本的には所属している会社になることが多いです)に対して損害賠償請求を行い、しっかりと回収していくことが肝要となります。
高次脳機能障害の場合、その障害の程度にもよりますが、賠償請求すべき損害費目が多岐にわたる傾向にあります。本項では、高次脳機能障害事案で特に問題になることが多いものについて記載します。
慰謝料(精神的損害)については次項で整理しています。
⑴将来介護費
①概要
高次脳機能障害が残存すると、将来的に付添介護等が必要になることが往々にしてあります。家族等の近親者が介護を行うこともあれば、職業付添人を雇うこともあるでしょう。
将来介護費は、これらの損害について請求するものとなります。その損害費目の性質上、高い蓋然性で付添介護が要求されるであろう3級以上が認定された事例において、多くの裁判例が将来介護費の必要性を認めています。他方、必ずしも付添介護の必要性があるとは言い難い5級以下の事例では、個別具体的な事情を斟酌した上で、将来介護費の認定の可否の判断が分かれる傾向にあります。
職業付添人による介護の必要性については、現に施設を利用して介護を行っている事実や、ヘルパーまたは職業付添人に依頼している事実が認められる場合には、以降も同様の状況での介護の必要性を認知している裁判例が多いです。
現在の介護状態が近親者による介護である場合には、今後も近親者による介護がされることを前提に介護費が認定されることが多いですが、被害者の要介護状態、介護者の介護能力、介護者の就労状況・就労の意思等から、将来的に職業付添人による介護が必要と判断される場合には、これを考慮した将来介護費が認定されています。
なお、2024年版の民事交通事故訴訟損害賠償算定基準(俗に「赤本」)上巻(基準編)28頁によれば、次のように記載されていて、金額算出時の目安になります。
「職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円。但し、具体的看護の状況により増減することがある」
②介護保険給付との関係
介護保険法において、申請者の申請を経て認定を受けた「要介護者」および「要支援者」に対し、介護保険の支給が行われます。
65歳以上の者の場合、要介護あるいは要支援の原因は限定されていないので、65歳以上の者が労災に遭い高次脳機能障害を残した場合には介護保険給付がなされることになります。
i 将来の介護保険給付との損益相殺
口頭弁論終結時までに金額が確定し、支払いがなされている介護保険給付は損益相殺の対象となり、既払扱いで損害額から控除されますが、口頭弁論終結時以降の金額が確定していない将来の介護保険給付は損益相殺の対象にはならないというのが一般的な考え方です。「口頭弁論終結時」というのはあくまで紛争が裁判に発展した場合の話になりますので、示談交渉等で解決する場合は双方協議で基準日を決めていくことになります。
ii 将来介護費の日額算定
基準となるのは自己負担額なのか介護保険適用部分を含むのかという議論ですが、将来も現行の介護制度が維持されるとは限らないとして、介護保険適用部分も含めて日額を算出している裁判例が比較的多いです。
⑵将来治療費、家屋の改造、福祉車両、その他将来発生が予想される費用
高次脳機能障害に限った話ではありませんが、症状固定日以降の治療費(将来治療費)については支払われないのが原則です。ただ、治療によって症状が悪化することを防止する必要がある場合には、例外的に相当な支払いが認められることがあります。
家屋の改造費は、被害者に生じている障害の内容及び従来の家屋の構造から、家屋の改造の必要性が認められる場合には、損害として認められます。ただ、家屋の改造が、他の家族にとっても利便性が向上する性質のものであるときは、割合的な認定がなされます。
福祉車両の費用、その他将来発生することが予想される費用については、被害者の介護状況から必要性が認められる場合には、平均余命まで相当な費用が損害として認定されます。
慰謝料(精神的損害)について

慰謝料は基本的には被害者が受けた精神的苦痛に対する損害の賠償ですが(民法第710条)、被害者が死亡した事案では被害者の父母、配偶者及び子について固有の慰謝料請求権が認められています(民法第711条)。
ただ、死亡時案でなくても「重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料請求権が認められる」(2024年版赤本上巻234頁)とされており、この場合では被害者本人の慰謝料とは別個に親族固有の慰謝料請求が可能です。
⑴高次脳機能障害被害者本人の慰謝料金額
被害者本人に発生する慰謝料としては、事故日から症状固定日までの治療期間に対応する慰謝料(傷害慰謝料)と、残存した後遺障害の等級に応じた後遺症慰謝料の2つがあります。
いずれについても赤本記載の基準額を原則とし、事案に応じて調整がなされることがあるという印象です。
①傷害慰謝料の金額(治療期間に対応する入通院慰謝料金額)
赤本の基準では、入院期間、通院期間に応じて目安となる基準額が決まります。
たとえば入院3か月+通院9か月の事案なら226万円、入院のみ12か月の事案なら321万円となっています(2024年版赤本上巻212頁の別表Ⅰ)。
②後遺症慰謝料の金額
裁判基準の後遺症慰謝料の金額は以下のとおりです。
| 第1級 | 2800万円 |
| 第2級 | 2370万円 |
| 第3級 | 1990万円 |
| 第4級 | 1670万円 |
| 第5級 | 1400万円 |
| 第6級 | 1180万円 |
| 第7級 | 1000万円 |
| 第8級 | 830万円 |
| 第9級 | 690万円 |
| 第10級 | 550万円 |
| 第11級 | 420万円 |
| 第12級 | 290万円 |
| 第13級 | 180万円 |
| 第14級 | 110万円 |
なお、高次脳機能障害で認定されうる等級は1,2,3,5,7,9,12級ですが、他の後遺障害と併合されて最終等級が繰り上がることはあり得ます。
たとえば、高次脳機能障害5級と一下肢の機能障害12級が認定された場合、重いほうの等級が1つ繰り上げられるため、最終等級は併合4級となります。
高次脳機能障害で13級以下の認定はありませんが、ここでは参考のため記載しています。
i 慰謝料金額増額事例
少数ではありますが、予測困難な将来発生する費用や高次脳機能障害以外の後遺障害の内容・程度等を考慮し、赤本の基準金額より増額している事例もあります。
その他、高次脳機能障害の事例に限りませんが、加害者による事故後の著しく不誠実な態度(救護活動を行わずに現場から逃走し、証拠隠滅した事例など)により、被害者の精神的損害が増大した場合には増額理由になりえます。
ii 慰謝料金額減額事例
他方、被害者の収入状況や生活状況に大きな変化がみられないこと等、事故後の実質的な不利益が後遺障害等級に比して小さいとみられる場合には、赤本の基準金額よりも低い後遺症慰謝料が認定されることもあります。
⑵高次脳機能障害の被害者の家族固有の慰謝料金額
「重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料請求権が認められる」(2024年版赤本上巻234頁)とされており、この場合では被害者本人の慰謝料とは別個に親族固有の慰謝料請求が可能です(死亡慰謝料の基準が基本的には近親者固有分を含むとしている(2024年版赤本上巻203頁)のとは異なります。)。
高次脳機能障害について認定した裁判例では、後遺障害等級2級以上の事案では近親者固有の慰謝料が認められることが一般的で、3級の事案でも認められるものが多いです。他方、4級以下の事案では個別の事情により判断が分かれています。
固有の慰謝料を請求できる「近親者」の範囲ですが、基本的には民法第711条規定の父母、配偶者及び子になっていますが、兄弟姉妹や事実上の母親(事故時から実父と内縁関係にあった女性でその後正式に婚姻した)で認められたケースもあります。
どのような近親者にそれぞれどのくらいの固有慰謝料が認められるかについては、被害者との関係、後遺障害の程度、要介護状態等によって個別に判断されており、被害者の後遺障害の程度が重く、被害者と密接な関係を有し、介護の負担が大きい近親者ほど固有慰謝料の金額が高く認められる傾向があります。
高次脳機能障害等級認定に関するその他の注意点
⑴画像所見は最重要です
高次脳機能障害自体は、必ずしも労災等の外傷で生じるものではなく、脳血管障害や脳腫瘍、脳感染症などでも発症しますし、うつ病や統合失調症などの精神疾患でも高次脳機能障害の症状がみられます。
そのような観点から、労災保険(あるいは会社側や裁判所)に対し、労災被災後に発生した高次脳機能障害の症状が労災によって発生したと認めさせるためには、「頭部外傷による」脳損傷を示す画像所見が重要になります。
そのような画像所見が無い場合、高次脳機能障害の(あるいはそのような)症状が事故後に発生したとしても、労災と関係がないか、あるいは非器質性精神障害としての扱いにならざるを得ません。
近年よく目にする軽度外傷性脳損傷(MTBI)は、CTやMRIでの画像上の所見が全くなくても、びまん性脳損傷があり、症状が出現する概念だと言われます。
びまん性脳損傷は確かに高次脳機能障害の原因になりうる脳損傷ですが、急性期のCT撮影だけでは脳損傷を示唆する画像所見の撮影が困難だという特殊性があり、画像所見が無いからと言って外傷と関係ないと言い切れるわけではないはずです。他方、MTBIは医学的に確立した疾患だと言い難いとされていることもあり、こちらについても適切な賠償を求めるにあたっては画像所見が重要だという点に変わりはありません。
⑵高次脳機能障害被害者が高齢者の場合

高次脳機能障害の主な原因は頭部外傷だと言われますが、それだけではないのは前述のとおりです。
高齢者の場合は、高次脳機能障害の原因が一つではない可能性もあり、評価には注意が必要だと言われます。
高次脳機能障害の原因になりうる既往症があるところに頭部外傷を受傷することや、その逆もあり得ます。
会社側や裁判所の発想として、本当に事故による高次脳機能障害なのか(受傷否認)、そうだとしてすべてが事故のせいなのか(素因減額)という論点に繋がる部分でして、警戒が必要です。
特に、衝撃が軽度だったとみられかねない事故態様のケース、受傷後しばらくして症状が発現したとか、治療中に悪化した場合などは要注意です。
高次脳機能障害に関する等級や賠償金額については専門の弁護士に相談を

労災等で頭部外傷を負い外傷性の高次脳機能障害を受傷した場合、会社側に対しての損害賠償請求を適切に行うためには、受傷態様や残存した後遺障害についての立証資料を適切に収集する必要があります。弁護士法人小杉法律事務所では高次脳機能障害に関する無料相談を実施しておりますので、所属弁護士に是非ご相談ください。
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