労災障害等級の解説

脳の障害

遷延性意識障害|医師監修記事・労災被害者専門の弁護士法人小杉法律事務所

こちらの記事では遷延性意識障害について整理するとともに、

労災が原因で遷延性意識障害を負ってしまった場合の損害賠償請求や後遺障害について解説しております。

なお、医学的事項につきましては、医学博士早稲田医師(日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会専門医、日本医師会認定産業医)に記事監修をいただいております。

 

意識障害とは

意識は意識レベル(覚醒度)認識機能の2つの要素で捉えることができます。

意識レベル(覚醒度)は、外的刺激に対する反応(開眼する、顔をしかめる等)により計ることができます。

意識レベル(覚醒度)と認識機能の両方が正常に保たれている状態を意識清明といい、どちらか一方あるいは両方が障害された場合を意識障害といいます。

⑴意識レベル(覚醒度)の異常:意識混濁

傾眠、昏迷、半昏睡、昏睡(右に行くほど重症です)等の状態意識混濁と言います。

意識レベルの判定には日本ではJCSやGCSが多用されます。JCS、GCSの具体的内容については後述します。

⑵認識機能の異常:意識変容

せん妄、錯乱、もうろう状態などの状態意識変容といいます。

意識変容は、通常、意識レベルが正常または傾眠程度の軽度の意識混濁の場合における認識機能の異常を指します。

※せん妄…軽度の意識混濁に、不安や焦燥など精神活動の興奮を伴ったもの

※もうろう状態…軽度の意識混濁に意識野の狭窄を伴ったもの

以上の関係を図にまとめると、下図のようになります。

⑶意識障害の評価方法(JCS、CGS)

前述のとおり、意識レベルの判定にあたり、日本ではJCS(Japan Coma Scale:ジャパンコーマスケール)GCS(Glasgow Coma Scale:グラスゴーコーマスケール)という評価基準が多用されています。

①JCS

JCSは意識レベル(覚醒度)の評価に用います。

覚醒の程度によって、Ⅰ(1桁)、Ⅱ(2桁)、Ⅲ(3桁)の三段階に大きく分け、さらにそれを3段階に分けます。

点数は「Ⅱ-20」などと表記します。健常者(意識清明)は「0」と表記されます。

点数が高いほど状態が悪いということになり、意識レベルとの対応関係はおおむね以下のとおりです。

傾眠→10 昏迷→20、30 半昏睡→100、200 昏睡→300

Ⅰ:刺激しないでも覚醒している状態
意識清明
1(Ⅰ-1) 意識清明とは言えない
2(Ⅰ-2) 見当識障害がある
3(Ⅰ-3) 自分の名前、生年月日が言えない
Ⅱ:刺激すると覚醒
10(Ⅱ-10) 普通の呼びかけで容易に開眼する
20(Ⅱ-20) 大きな声または体を揺さぶることにより開眼する
30(Ⅱ-30) 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する
Ⅲ:刺激しても覚醒しない状態
100(Ⅲ-100) 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする
200(Ⅲ-200) 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる
300(Ⅲ-300) 痛み刺激に全く反応しない

②GCS

こちらは意識レベル(覚醒度)と意識内容を別々に評価しています。

開眼機能(E)、言語機能(V)、運動機能(M)の3要素に分けて意識状態を指標化し、これらの合計点数により評価します。

表記としては「E1 V2 M4 合計7点」などと表記します。健常者だと15点(満点)、最低点は3点です。

JCSとは対照的に、点数が低いほど状態が悪いということになります。

通常、11点以上の患者では中程度の障害を残すか良好に回復し、7点以下の患者は死亡したり遷延性意識障害(植物状態)になることが多いと言われています。

開眼(E:eye opening)
自発的に開眼
呼びかけにより開眼
痛み刺激により開眼
なし
言語(V:verbal response)
見当識あり
混乱した会話
不適切な単語を使う
無意味な発声
発語が無い
運動機能(M:motor response)
指示に従う
痛み刺激の部位に手足を持ってくる
痛みに手足を引っ込める(逃避屈曲)
痛みに上肢を異常屈曲させる(除皮質姿勢)
痛みに上肢を異常伸展させる(除脳姿勢)
全く動かない

 

意識障害が生じるメカニズムとは?

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、135~136頁)

⑴意識障害のメカニズム

意識のうち、意識レベルの維持は主に脳幹網様体と間脳の視床下部が、認識機能の維持には主に大脳半球が関与しています。

ですので、脳幹障害、両側間脳障害、大脳半球の広範の障害のいずれか、またはこれらの病変が混在した場合に、意識障害が生じます

※補足

脳幹は、上から中脳、橋、延髄の3つが重なって構成されています。↑のイラストだと、見えているのは橋の下部と延髄の部分だけ(紫色)で、橋の中部より上と中脳は側頭葉に隠れている状態です。

間脳は脳幹の上部に位置し、大脳半球の中心部にありますので、↑のイラストでは図示されていません。強引に表現すれば、側頭葉の緑色頭頂葉の赤色が交わるあたりにあります。視床上部、視床、視床下部から構成されます。

⑵意識障害が生じる原因

大きくは、頭蓋内に一次的な原因を有している器質的脳疾患と、頭蓋外の原因で二次的に脳機能が障害されている機能性脳疾患に分けられます。

①器質的脳疾患(一次的)

頭部外傷で発生する場合があるほか、脳血管障害によって発生することも多いです。

②機能性脳疾患(二次的)

心不全、糖尿病、肝不全、腎不全等が挙げられます。

たとえば心不全でいいますと、心臓から全身に血液を行き渡らせることが困難になるため、脳への栄養やエネルギーの供給が不十分となり、これによって意識障害が生じる、といったかたちになります。

 

遷延性意識障害とは

(標準脳神経外科学第16版(医学書院)、142頁、280頁)

⑴どのような状態を指すか

遷延性意識障害とは、頭部外傷や脳内出血などのため昏睡状態に至り、生命の危機を脱したのちに開眼できる状態にまで回復したものの、周囲との意思疎通能力を喪失した状態のことを言います。

大脳半球が広範囲(びまん性)に障害されているものの、脳幹機能は保たれているので自発呼吸は可能で、心拍も維持されます。

遷延性意識障害は、植物状態と呼ばれることもありますが、脳死とは異なり意識障害の一つなので、まれに回復することもあるとされています。

※なお、「植物状態」という言葉の由来は、自律神経系の昔の呼称にあります。自律神経系は本人の意思とは無関係に働くものであることから、運動や知覚等の機能を司る体性神経系が「動物神経系」と呼ばれていたことに対するかたちで「植物神経系」と呼ばれていました。前述のとおり、遷延性意識障害下においても自律神経(植物神経系)の機能は保たれますから、そういう意味で「植物状態」という別称が用いられていた経緯があります。とはいえ、「植物状態」という言葉を聞いて、草木などのいわゆる一般的な「植物」が連想されることがほとんどであることから、「植物状態」という言葉に否定的な印象が抱かれることが少なくないことも否めず、人間の尊厳や倫理観にも触れうる表現であるとして、近年ではほとんど使われません。

⑵遷延性意識障害の診断基準

日本脳神経外科学会(1976年)によれば、次の6つの項目をすべて満たし、かつ3か月以上継続して固定すると、遷延性意識障害と診断されます。

自力移動ができない
自力で食物を摂取できない
糞・尿失禁状態である
眼球がものを追うことはあるが認識はできない
「目を開け」「手を握れ」等の簡単な命令に応じることがあるが、それ以上の意思疎通はできない
声は出るが意味のある発語ではない

⑶遷延性意識障害の症状

周囲との意思疎通能力が喪失します。発声があったとしても、意味のある発言をすることは不可能に等しいです。

大脳半球が広範囲に障害されているものの、脳幹機能は保たれているので自発呼吸は可能ですし、対光反射も正常を呈します。

また、自力での移動や体位変換、排泄等は不可能であるため、近親者や職業付添人等による常時介護が求められます。

⑷脳死との区別

脳死とは、全脳の不可逆的機能喪失で、脳機能の回復はない状態(全脳死)です。

心臓自体は機能しているものの自発呼吸はなく、人工呼吸器管理下でなければ呼吸循環を維持できません。

短期間のうちに、心停止・呼吸停止・瞳孔散大という死の三徴候を呈します。

⑸遷延性意識障害の予後・寿命

前述のとおり、遷延性意識障害の状態でも脳幹機能は保たれており、自発呼吸があります。

そのため、栄養補給や褥瘡予防などの適切な看護を行うことにより、数年~十数年、長ければ数十年の間生存が可能だとされています(期間については書籍によって記載が異なるところがありましたので、一概に具体的な年数を示すことが難しい状況のようです。)。

このように、遷延性意識障害の寿命は読めない部分もありますが、これをもって加害者側は平均余命までの生存可能性が多くないと主張し、介護費用の算定期間を短期間にすべきだと争ってくることが多くあります。しかしながら最近の傾向としては、被害者の健康状態が思わしくない状態を繰り返すなどの特別な事情がないかぎり、平均余命までの年数をもって算定する裁判例が多数です。

 

遷延性意識障害における入院費用の内訳と平均額

⑴医療費の負担区分と保険制度の適用範囲

遷延性意識障害における医療費は、医療施設での継続的な治療や介護が必要となるため、高額になるケースが一般的です。具体的な負担は、保険制度の適用状況によって大きく異なります。基本的には健康保険が適用されるため、自己負担率は3割となりますが、高額療養費制度を利用すれば一定金額を超えた部分が還付されるため、経済的な負担を軽減できます

ただし、労働災害や通勤災害が原因で遷延性意識障害になった場合は、労働者災害補償保険(通称「労災保険」)から医療費の支払いがなされる可能性があります。治療が行われる病院が労災指定病院か、それとも労災指定外病院かによって、用いる様式が異なります。

まず労災指定病院の場合には、労働災害であれば様式第5号、通勤災害であれば様式第16号の3を用いることになります。基本的には、事業主証明が記入された様式第5号(又は様式第16号の3)を労災指定病院に提出することで、病院から労働基準監督署に対して医療費の請求が行われることになります。これにより、被害者(またはその家族)が医療費を実際に手出しする必要がなくなるので、経済的負担を抑えることができます。

他方で、治療を受けた病院が労災指定外病院であった場合には、被害者側で一度医療費を全額支払う必要があります。支払いをしたのち、労働災害であれば様式第7号⑴「療養の費用請求書」と支払い済みの領収書を合わせて労働基準監督署に提出することとなります。通勤災害であれば、様式第16号の5「療養の費用請求書 通勤災害用」と支払い済みの領収書を労働基準監督署に提出します。遷延性意識障害の場合、前述のとおり医療費の金額が非常に高くなる可能性がありますので、この点には留意が必要です。

なお、時折事業者が事業主証明をすることを拒否することがありますが、証明を拒否されたとしても労働基準監督署への請求は行うことができます。その際は、もし事業主証明を拒否する旨が明示されている文書がある場合にはその文書を添付したり、文書がない場合には事業主証明が拒否された旨の付箋やメモ書き等を様式に貼付して労働基準監督署に提出するのがよいでしょう。

⑵医療現場でのサポート体制

遷延性意識障害の患者には、24時間体制での医療的なサポートが必要です。医療現場では、点滴や胃ろうを通じた栄養管理、褥瘡予防のための体位交換、そして感染症管理が主なケアとして行われます。これらのケアは専門的な知識と技術を持つ医療従事者により提供されます。

また、患者家族への心理的な支援や、受けられる保険や福祉制度の説明も重要なサポートの一環です。労災によって遷延性意識障害となるケースでは、労災保険の手続きを含め事故後の対応や法律的手続きが複雑であるため、病院内に設置されるソーシャルワーカーや相談窓口を活用しつつ手続きを進めることが推奨されます。

⑶一般病院での入院費用の平均例

遷延性意識障害と診断され、長期の入院を必要とする場合、医療費は非常に高額になる傾向にあります。一般病院での入院費用は病院の施設や地域によって差がありますが、1日あたりの費用はおおよそ5,000円から10,000円程度とされています。この金額には、病院での治療や看護の基本的な費用が含まれています。遷延性意識障害での入院は平均的な期間が長く、治療費が特に高額になる傾向があります。そのため、全体の支払金額が数百万円以上になることも往々にしてあります

⑷差額ベッド代等追加費用の注意点

遷延性意識障害の患者が入院する病院では、差額ベッド代などの追加費用が発生する場合があります。これは、個室や少人数部屋を利用する際に発生する費用で、病院の規模や部屋のグレードによって1日あたり5,000円から20,000円以上となるケースもあります。労災の場合、原則的には差額ベッド代は自費負担する必要があります。ただし、医師により個室を利用する必要性等が示される場合等には、例外的に差額ベッド代が労災の補償対象になるケースもあるようです。

なお差額ベッド代は、仮に労災保険から補償されなかった場合にも、損害賠償請求に含めることができます。裁判例の傾向上、医師の指示ないし特別の事情がないと差額ベッド代は損害として認められない可能性がありますが、ここでいう「特別な事情」の一例として「症状が重篤であること」が挙げられますから、遷延性意識障害における差額ベッド代は高い確率で損害として認められると考えてもよいと思います。ただし気を付けておきたいこととしては、遷延性意識障害の場合、将来的にも差額ベッド代が必要になることが多いかと思いますが、少なくとも示談交渉段階において将来的差額ベッド代が賠償金として支払われることは殆どなく、将来的差額ベッド代については裁判で争う必要があることが多いです。

⑸長期入院となった場合のコスト試算

遷延性意識障害では、入院期間が長引くケースが多く、それに伴い医療費の総額も大きくなります。例えば、1日あたりの入院費用が仮に10,000円だった場合、1年間(365日)で約365万円となります。ここに追加の治療費や差額ベッド代が加わると、さらに数十万から数百万が必要となる可能性もあります。このように、高額な出費が避けられないため、早い段階で労災保険に医療費の請求等を行い、少しでも経済的負担を減らしておくことが重要となります。

 

遷延性意識障害と労災保険の後遺障害等級について

労災 障害認定必携

労働災害・通勤災害によって遷延性意識障害を残存するに至った場合、労災保険給付の一つである障害(補償)給付の支給請求を行うことができます。なお、ちょっと細かい話にはなりますが、保険給付の名称につき、労働災害の場合には「障害補償給付」、通勤災害の場合には「障害給付」となります。もっともこれらは名称が異なるだけであり、障害補償給付か障害給付かで保険給付の内容が変わることはありません。

労災保険に関する法令である労働者災害補償保険法及び労働者災害補償保険法施行規則別表第一に示される後遺障害等級のうち、遷延性意識障害について認定される可能性がある等級は以下のとおりになります。

第1級の3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

→生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの

なお、1級が認定された場合に支給される障害(補償)給付は、①給付基礎日額の313日分の障害年金、②障害特別支給金342万円、③算定基礎日額313日分の障害特別年金の3つになります。①については、給付基礎日額の313日分の金額を年額として、年額の6分の1の額が偶数月(2月・4月・6月・8月・10月・12月)に支給されます。③についても同様です。②の障害特別支給金は一時金であるため、初回支給時にのみ342万円が支払われることとなります。

なお、③障害特別年金について、その算定基礎となる算定基礎日額は、労働災害・通勤災害が発生した日または診断によって病気にかかったことが確定した日以前1年間に、被災労働者が事業主から受けたボーナス・賞与等の賃金(但し3か月を超える期間ごとに支払われるものに限ります。)の総額をベースとして算出されますが、これは換言すれば、ボーナス・賞与等の支払がない場合には障害特別年金の支給もないということになりますので、この点には注意が必要です。

 

遷延性意識障害で等級認定を受けた場合、損害賠償金額は億単位になることもあります。

弁護士小杉晴洋

弁護士小杉晴洋

労災保険から支給される障害(補償)給付はあくまで最低補償の金額であり、労働災害・通勤災害にて遷延性意識障害を残存してしまった場合の損害の填補としてはおよそ十分とはいえません。

そのため、労働災害の発生について事業主側に過失がある場合や、通勤災害の発生について相手方に過失がある場合には、損害賠償請求を行い、適切な補償を受けることが非常に重要となります。

 

一般的に労働災害・通勤災害によって損害が生じた場合には、以下のようなものを請求することができます(※がついている費目は労災保険の障害(補償)給付において後遺障害等級が認定された場合に請求に加えることができます。)。

・治療費

・入院に際して負担した入院雑費

・後遺症逸失利益

・傷害慰謝料(入通院慰謝料)

・後遺症慰謝料

遷延性意識障害の場合、これらのみならず、今後何十年という将来に向かって必要となるであろう費用も検討・精査し、賠償額に反映していくことが極めて重要となります。主に、次のようなものが考えられます。

⑴症状固定後の治療費

一般的に、損害賠償請求における治療費は、症状固定日までに要した金額しか請求できませんが、残存している症状の内容や程度等の具体的な事情を考慮し、支出が相当であると認められる場合には、症状固定後に要した治療費も損害として認定されることがあります。遷延性意識障害の場合、症状固定を迎えたからといって直ちに退院して自宅に迎えられるような状況とも限らず、症状固定後も環境が整うまで入院を継続することもありますので、その入院費用を治療費として請求できる可能性があります。以下の裁判例は被害者が高齢者の方になりますが、症状固定後の治療費についてイメージいただく参考になるかと思います。

・東京地裁平成22年3月26日判決(交民443・2・455)

遷延性意識障害(1級)の男性(症状固定時69歳)につき、症状固定後約2年間に支出した自由診療によるものを含む入院治療費について既払額全額1583万円余を認め、その後の治療費につき53万円余を認めた。

⑵将来治療費

残存している症状の内容や程度等の諸般の事情を考慮した上で、将来的に治療の必要性や相当性が認められる場合に、損害として認定される傾向があります。

症状固定後の治療費と同様に、通常、損害賠償請求では認められないことが多いですが、遷延性意識障害の場合には、将来的な治療の必要性や相当性については治療費の負担が考えられる場合には認定されることがあります。以下の裁判例は被害者が高齢者の方になりますが、1級の意識障害における将来治療費のイメージが掴めるのではないかと思います。

・大阪地裁平成27年9月4日判決(交民48・5・1110)

意識障害、全介助(1級)で療護センターに入院中の被害者(女性・60歳代前半)につき、のちに転院の蓋然性が認められる病院での将来治療費として療護センターでの保険給付部分を含めた治療費の額の約7割に相当する月額49万円、将来個室利用料として月額6万円の月額合計55万円を平均余命まで7147万円余認めたほか、将来雑費として1日1500円を平均余命まで認めた。

⑶付添看護費用

付添看護費用は、入院付添費・通院付添費・自宅付添費があります。

入院付添費は、医師の指示又は受傷の程度、被害者の年齢等を鑑みて必要性が認められれば、職業付添人については実費全額近親者付添人は1日につき6500円(具体的看護の状況により増減あり)で被害者本人の損害として認定されることが多いです。

通院付添費は、症状又は幼児等付添が必要と認められる場合に、被害者本人の損害として肯定され、一般的に1日につき3300円で算定されることが多いです。

自宅付添費は、症状や被害者の年齢等から、自宅において近親者や職業付添人の付添が必要かつ相当であると認められる場合に認定される傾向があります。

・京都地裁平成24年10月17日判決(交民45・5・1272)

遷延性意識障害(1級)の被害者(固定時35歳)につき、母親が付添をした入院期間1593日について付添交通費合計429万円とは別に日額8000円、合計1274万円余の入院付添費を認めた。

・東京地裁平成28年9月6日判決(交民49・5・1088)

遷延性意識障害(1級)の女性につき、親族が症状固定後も毎日ではないものの9割以上付き添ったとして、症状固定後の入院付添看護費として入院期間969日の9割につき日額6500円、合計566万円余を、近親者通院交通費として請求額の9割合計247万円余をそれぞれ認めた。

なお、近親者が付添をしたことにより休業損害が発生しているような場合に、休業損害としてではなく、休業損害相当額をもって付添看護費用を認定した裁判例もあります。以下の裁判例は被害者が中学生の方になりますが、母親が介護を行うにあたり看護師を退職せざるを得なくなった事情を汲み取ったうえで付添費の日額を認定しています。

・神戸地判伊丹支部平成30年11月27日判決(自保ジ2039・1)

遷延性意識障害(1級)の中学生(事故時14歳)につき、主として介護に当たった母が付添のために看護師として勤務していた病院を退職せざるを得なくなったことから、付添看護費として事故前年の年収を基礎に日額1万0389円、付添日数884日、合計909万円余を認めた。

⑷将来介護費

医師の指示又は症状の程度により必要性が認められれば被害者本人の損害として認定されます。この時、金額は、職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円で算定されることが多いです。なお、訴訟中に被害者が死亡した場合には、死亡以降の介護は不要になるため、死亡後の介護費用は損害として認められません

職業付添人による介護の必要性については、現に施設を利用して介護を行っている事実や、ヘルパー又は職業付添人に依頼している事実が認められる場合には、以降も同様の状況での介護の必要性を認知している裁判例が多いです。

現在の介護状態が近親者による介護である場合には、今後も近親者による介護がされることを前提に介護費が認定されることが多いですが、被害者の要介護状態、介護者の介護能力、介護者の就労状況・就労の意思等から、将来的に職業付添人による介護が必要と判断される場合には、これを考慮した将来介護費が認定されています。

・横浜地裁平成21年5月14日判決(自保ジ1802・3)

遷延性意識障害(1級)の会社員(男性・固定時45歳)につき、施設入所中の付添介護費として日額3000円、計132万円余、施設退所後の自宅介護費として、妻67歳まで平日は近親者介護費日額1万円、休日は職業介護人2人分日額3万2354円、計6197万円余、その後平均余命まで職業介護人2人分3万2354円、計3792万円余の合計1億0122万円余を認めた。

・仙台地裁平成2年11月17日判決(交民42・6・1498)

遷延性意識障害(1級)の男子中学生(症状固定時16歳)につき、介護内容が多岐にわたり拘束時間が長い上、週1回看護師・理学療法士、週2回ヘルパーの訪問を受け、職業介護人による介護費用も要するが、公的給付は将来において確定的に存続するとはいえないことなどから、退院後母67歳まで日額1万5000円、以降は職業介護を前提に日額2万円、合計1億2411万円余を認めた。

・東京地裁平成22年3月26日判決(交民43・2・455)

遷延性意識障害(1級)の自営業者(男性・固定時69歳)につき、現在入院中の自動車事故対策機構の療護センターを、入院3年後には退院を余儀なくされる蓋然性が高く、その後の受入施設は容易に見つけ出せないこと、妻らが在宅介護を望んでいることから、退院後は在宅介護を前提とした将来介護費を認めるのが相当とし、妻は高齢であるため、職業介護人によるとしつつ、公的介護サービスの提供を一定程度受けることも可能であるとの事情も考慮して、日額2万5000円、退院予定時から平均余命まで6235万円余を認めた。

・名古屋地裁平成23年2月18日判決(交民44・1・230)

遷延性意識障害(1級)の大学生(症状固定時21歳)につき、就業している母が67歳までの20年間は、平日(年間240日)と母親の休息時間を要する60日の合計300日は日中は職業付添人、夜間は母親が介護し、残り65日については全日母親が介護するとして、その日額を職業介護人2万円、近親者付添費は夜間5000円、全日1万円とし、母親が67歳以降の37年間は職業付添人日額2万5000円として、総額1億5903万円を認めた。

・横浜地裁平成30年3月19日判決(交民51・2・313)

重度意識障害(1級)の男性(固定時21歳)につき、症状固定前の付添看護費202万円余のほか、両親が頻繁に病院を訪れ、身体を擦り、声かけ、拘縮予防のためのストレッチ等の働きかけを行い、開眼して眼球が動く、笑顔を見せるといった変化が生じたことから、単なる見舞いを超えた付添看護の負担があったといえるとし、平均余命の58年にわたり、隔日、日額6500円(年額118万円余)、合計2232万円余を認めた。

また、介護施設関係費用が損害として認定された裁判例もあります。

・京都地裁平成14年2月7日判決(自保ジ1443・12)

植物状態(1級)の男性(固定時83歳)につき、被害者が自宅介護を受け入れられる状態になるまでリハビリを中心とした訓練を受けたこと、介護されるべき自宅を相当な範囲で改築するなどの受け入れ態勢を整える必要があったことから、症状固定から自宅へ引き取るまでの約1年1か月間入所した特別養護老人ホームの入所費用149万円余を認めた。

⑸装具・器具等購入費

車椅子や介護支援ベッド等、必要性が認められる場合に損害として認定される傾向にあります。

・札幌高裁平成13年5月30日判決(交民34・6・1786)

いわゆる植物状態となった被害者(事故時7歳)につき、てんかんの治療費、おむつ代、消毒剤等、介護用ベッド、マットレス、車いす、吸引器、自動車リフト等の購入費及び維持管理として少なくとも年額120万円余を要するとして、平均余命まで総額1546万円余を認めた。

・名古屋地裁平成29年10月17日判決(交民50・5・1246)

遷延性意識障害(1級)あるも簡単な意思疎通が可能な被害者(症状固定時17歳)につき、ボイスキャリーチャペラ(携帯用会話補助具9万円余)を5年毎買い替える費用(12回分)を認めた。

⑹家屋・自動車等改造費

被害者の受傷の内容、後遺症の程度及び内容を具体的に検討し、必要性が認められる場合に、相当額が損害として認定されます。判例上、浴室やトイレ、玄関等の出入口、エレベーター、自動車の改造費等が認定されています。

・大阪高裁平成14年5月23日判決(自保ジ1457・3)

遷延性意識障害(1級)の男児(7歳)につき、エレベーター設置費用、保守管理費用の8割を含め家屋改造費1476万円余を認めた。

・東京地裁令和4年11月29日判決(交民55・6・1568)

遷延性意識障害(1級)の女性につき、車椅子のため居室をタイルフロアーにし、居室内に洗面化粧台、湿度調整ができるエアコンを設置したほか、訪問入浴差サービスのため障子をブラインドに変更し、が活きよ訓ためにテラスとスロープを設置するとともに隣接地とのフェンスを高くし、福祉車両用の駐車場を設置するなどの改修費用として、公的給付を受けた金額を除く1084万4300円の全額を認めた。

・名古屋高裁平成18年6月8日判決(自保ジ1681・2)

遷延性意識障害(1級)の被害者(17歳)につき、改造車両の本体価格309万円余のうち100万円が事故と相当因果関係があるとして、耐用年数6年、平均余命まで10回分378万円余を認めた。

家屋改造等により被害者以外の家族の利便性が向上すると認められる場合には、反射的利益に過ぎないとして減額がなされないこともあれば、割合で減額がなされる可能性もあります

・前橋地判高崎支部判決平成16年9月17日(自保ジ1562・3)

高次脳機能障害、四肢体幹機能障害)1級)の大学生(男・固定時21歳)につき、住宅改造費(リハビリ用スペースを確保し車椅子での移動を可能とするための洋室15畳・トイレ・浴室等の改修工事費、電気設備工事費、給排水等衛生設備工事費、各室段差工事費、スロープ・手摺り設置工事費、アスファルト舗装工事費)は被害者の生活およびその介護にとり不可欠なものであり、家族による便益享受はあくまでも副次的に生ずるとして、請求どおり1051万円を認めた。

・東京地裁判決平成17年3月17日(判時1917・76)

高次脳機能障害1級の被害者(男・29歳)につき、トイレ・浴室・居室・玄関等の改造、昇降リフトの設置費用等442万余、昇降リフトの買替費用(耐用年数10年、5回分)355万円、将来の同点検費用36万円余、今後行うバリアフリー化等費用は同居家族の利便性を考慮して約70%の510万円、合計1344万円余を認めた。

 

慰謝料について

慰謝料は、基本的には被害者が受けた精神的苦痛に対する損害の賠償になります(民法710条)。

しかしながら判例では、死亡の場合でなくとも、死亡に比肩するような精神的苦痛を受けた場合には、近親者にも慰謝料請求権が認められる旨が判示されており(最判昭和25年6月23日 民集12・12・1901など)、2025年赤本上巻236頁においても「重度の後遺障害の場合には、近親者にも別途慰謝料請求権が認められる」とされています。そのため、遷延性意識障害を含む重度の後遺障害が被害者に残存した場合には、被害者本人の慰謝料とは別個に親族固有の慰謝料請求が可能です

⑴被害者本人の慰謝料

被害者本人に発生する慰謝料としては、事故日から症状固定日までの治療期間に対応する慰謝料(傷害慰謝料)と、残存した後遺障害の等級に応じた後遺症慰謝料の2つがあります。

いずれについても赤本記載の裁判基準での算定額を原則とし、事案に応じて調整がなされることがあるという印象です。

①傷害慰謝料(治療期間に対応する慰謝料)

裁判基準では、別表Ⅰまたは別表Ⅱのいずれかの算定基準に基づき、総治療期間及び入院日数に応じて慰謝料額を算定します。

原則としては別表Ⅰを用いることとされており、受傷内容が軽い打撲や軽い挫創等のごく軽微なものであった場合には例外的に別表Ⅱが用いるとされています。そのため、同じ総治療期間を基礎として慰謝料を算定した場合、別表Ⅰで算定した金額のほうが高くなります。詳しくは下表をご覧ください。

遷延性意識障害が残存している場合、まず間違いなく別表Ⅰに基づいて算定されると考えてよいでしょう。たとえば、6か月間入院していた場合には、別表Ⅰの入院6月のところを参照し、傷害慰謝料額は244万円となります。

 

②後遺症慰謝料

後遺症慰謝料は、認定された等級に応じて金額を算定します。裁判基準における後遺症慰謝料の金額は下表のとおりです。

たとえば遷延性意識障害で1級が認定された場合、被害者本人の後遺症慰謝料額は2800万円となります。

③慰謝料を増額して請求できる可能性もある

加害者に故意または重過失があったり、または事故後に著しく不誠実な態度がある等の理由により、被害者の精神的損害が増大した場合には、慰謝料を増額して請求することも視野に入れることができます。たとえば、飲酒運転の車により通勤中の労働者が被災した通勤災害発生後に加害者が被災労働者を救護しなかった等が一例として考えられます。

⑵親族固有の慰謝料

前述のとおり、被害者本人に遷延性意識障害が残存した場合には、被害者本人の慰謝料とは別個に親族固有の慰謝料を請求することができます。

交通事故の裁判例になりますが、以下のような事例が挙げられます。なお、親族であれば必ず慰謝料が認められるとは限らず、被害者との関係性などの具体的事情を踏まえた個別具体的な判断がなされています。

・横浜地裁平成12年1月21日判決(自保ジ1344・1)

植物状態の小学生(症状固定時8歳)の事案につき、事故で被害者の進学等の夢を奪われ、老いるまで被害者の看護にあたらなければならず、被害者の将来に不安を抱くこと等を総合して母親に800万円の慰謝料を認めた。

・神戸地裁伊丹支部平成30年11月27日判決

遷延性意識障害の中学生(症状固定時17歳)の事案で父母にそれぞれ400万円、姉と兄にそれぞれ200万円の慰謝料を認めた。

・長野地裁平成18年11月15日判決(自保ジ1675・9)

脳挫傷後の寝たきり状態(1級)の主婦(固定時60歳)につき、傷害分266万円のほか、本人分2800万円、夫300万円、長女及び養子となった長女の夫各200万円、後遺障害分合計3500万円余を認めた。

 

実際にどのようなものを損害として請求できるかは、事案によって異なります。

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この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。