せき髄の障害
脊髄損傷|中心性脊髄損傷の後遺障害等級は?【労災事故被害者専門弁護士解説】
外傷により脊髄を損傷することを脊髄損傷といいますが、損傷の程度や状況によって多くの分類がなされます。
たとえば、脊髄を保護する骨である脊椎の損傷を伴う場合には骨傷性脊髄損傷といい、伴わない場合は非骨傷性脊髄損傷と呼ばれます。
また、脊髄の横断面の損傷の程度によっての分類として、大きく完全損傷と不全損傷とに分かれます。完全損傷は横断面全体が損傷されたケースであり、損傷した脊髄の高位より下位に完全麻痺が生じることとなります。他方、不全損傷は、横断面の一部が損傷されたケースであり、損傷範囲によって、前部脊髄損傷、後部脊髄損傷、脊髄半側損傷(ブラウン・セカール型損傷)、そして中心性脊髄損傷の4つの損傷パターンに類型化されています。
本稿では、不全損傷の一類型である中心性脊髄損傷について、その症状及び後遺症、そして後遺障害等級とのかかわりを、被害者専門弁護士の視点で解説していきます。
1.中心性脊髄損傷とは
上記で触れたように、中心性脊髄損傷は、不全損傷のうちの一つの損傷類型であり、脊髄横断面の中心部にある灰白質が損傷された状態を指します。
後述する受傷機転から、中心性脊髄損傷は頚髄について負傷することが多いため、以下では主に中心性頚髄損傷に焦点を当てて解説します。
中心性頚髄損傷を負傷するメカニズムは、主に、外部からの突然の衝撃によって首が大きく前後に振れてしまい、首が不自然に大きく後ろに反り返った状態(過伸展といいます)が生じることによって、頚髄(頸髄)の中心部が損傷されるかたちになります。
また、中心性頚髄損傷は脊椎等の骨折を伴わない場合にも生じることがあるので、骨傷性・非骨傷性いずれもみられるものとなります。
2.症状
⑴上肢の対麻痺・痙性麻痺(痙縮)
脊髄損傷を負傷すると、損傷高位から下位の髄節の支配領域について麻痺が生じることが極めて多いため、脊髄損傷は通常下肢の麻痺を発症することが多いです。
しかし、中心性頸髄損傷の場合、下肢よりも上肢に麻痺が強く生じ、痙性麻痺(痙縮)の症状を呈することが多いです。こうした通常の脊髄損傷と異なる麻痺の態様となる理由としては、脊髄横断面を考えたときに、脳から頚髄の神経支配領域(首・肩・上肢)に運動神経の信号を送る伝達経路が脊髄の中心寄りに位置しており、かたや胸髄や腰髄、仙髄の神経支配領域(胸髄は体幹、腰髄は股関節以下の下半身、仙髄は排泄機能に関わる器官や下半身背側)は脊髄中心部から離れた位置にあるためです。そのため中心性頚髄損傷を負うことによって、脳から頚髄への運動神経の信号の伝達が障害される一方で胸髄や腰髄、仙髄への信号伝達には障害が生じない状態となり、したがって下肢よりも上肢に強い麻痺が生じることとなります。
⑵手指の巧緻運動障害やしびれ
お箸を持ち上げる、洋服のボタンを留められなくなるなど、指先で細かい動きをすることができなくなったり、困難になる症状が現れます。
巧緻運動障害が生じているか確認する方法としては、お箸を持ち上げられるか、ボタンを留めることができるか、字をきちんと書けるかなどの日常生活動作の様子をみることが挙げられます。また、10秒テストというテストを行うことでも確認ができます。このテストは、左右のて手それぞれでグーパーする動作を10秒間に何回できるかを調べるテストで、正常値は20回以上となります。したがって、これを下回る結果だった場合は、巧緻運動障害が生じている可能性があります。
⑶感覚障害
温度感覚や痛覚など、一部の表在感覚について障害が生じます。脊髄には手足や体から脳に向かって感覚神経の信号を送る伝達経路が通っており、運動神経と同様、頚髄の神経支配領域からの知覚信号の通り道は中心寄りに位置しています。したがって、中心性頸髄損傷によって頚髄の支配領域から脳へ感覚神経の信号を送る伝達経路が障害され、感覚障害が現れることとなります。
3.後遺障害等級
業務中の事故や出退勤中の事故によって中心性頚髄損傷を負い、前述のような症状が後遺症として残存した場合、勤務先の労災保険を使用し、障害(補償)給付の支給請求を行うことができる場合があります。一般的に脊髄損傷の後遺症については、麻痺の程度や範囲、介護の要否及び程度に応じて、併発することの多い感覚障害や神経因性膀胱障害の程度も加味しつつ後遺障害等級認定が行われます。中心性頚髄損傷の場合、主に上肢の対麻痺が後遺症として残存することが多いですが、下肢にも麻痺の後遺症が残ることもあるため、それも加味して等級判断がなされます。
中心性頚髄損傷の場合に該当する可能性が考えられる後遺障害等級は以下のとおりとなります。
⑴第5級の1の2
「せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」に該当する場合、第5級の1の2が認定されます。第5級の1の2が認定された場合、当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の184日分の障害年金が支給されます。
第5級の1の2に該当する可能性があるのは、具体的には、以下のような場合となります。
a 軽度の対麻痺が認められるもの
b 一下肢の高度の単麻痺が認められるもの
⑵第7級の3
「せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」に該当する場合、第7級の3が認定されます。第7級の3が認定された場合、当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の131日分の障害年金が支給されます。
具体的には、「一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの」が該当します。
⑶第9級の7の2
「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」に該当する場合、別表第二第9級10号が認定されます。この場合、給付基礎日額の391日分の障害一時金が支給されます。
具体的には、「一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの」が該当します。
⑷第12級の12
「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」に該当する場合、第12級の12が認定されます。第12級の12が認定された場合、給付基礎日額の156日分の障害一時金が支給されます。
具体的には、「運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの」が該当します。
また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。
例1:軽微な筋緊張の亢進が認められるもの
例2:運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの
他方、事故後の初診時等に中心性頚髄損傷の診断がなされていないことなどを理由に、脊髄損傷の存在が否定されることがありますが、その場合でも、しびれや麻痺などの自覚症状について、MRI画像などの画像所見及び神経学的所見により医学的に立証が可能であると認められた場合には、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として第12級の12が認定される余地があります。
⑸第14級の9
「局部に神経症状を残すもの」に該当する場合、第14級の9が認定されます。
これは、画像所見などから脊髄損傷が生じていることは認められないものの、その場合でも、残存した後遺症の程度や、治療状況、通院頻度、症状の継続性及び一貫性などを総合的に考慮し、後遺症が将来にわたっても残存するものと認めた場合に認定される可能性があります。
4.最後に
認定審査において正しく後遺症の状態を認識してもらい、適切な後遺障害等級審査を行ってもらうためには、
障害(補償)給付支給申請をする際に後遺障害診断書に加えて『脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書』等の書類を準備したり、
医学的に後遺症を証明するような所見を得るために画像を撮影したり必要な検査を受けたりと、重要なポイントが数多くあります。
とりわけ中心性頚髄損傷は、ほかの脊髄損傷の損傷類型と比べて争いが起きやすい類型でもあります。
したがって、障害(補償)給付支給申請を行う段階から、等級獲得に向けて押さえるべきポイントを把握したうえで用意を行うことが非常に望ましく、そのためには後遺障害に関する経験や専門的知識が不可欠だといえます。
弁護士法人小杉法律事務所では、労災被害者専門・後遺症被害者専門弁護士による無料相談を実施しております。
事故後、両上肢に麻痺があり動かしづらいなど上記の症状がみられる場合や、業務中や出退勤中の事故等で中心性脊髄損傷を負傷した場合など…
お悩みの方は、ぜひ一度、弁護士法人小杉法律事務所の無料相談をお受けください。