休業(補償)給付 労災保険別 障害(補償)給付
【給付基礎日額】労災に強い社労士&弁護士が解説|令和7年最新版
2025.02.13
給付基礎日額とは、文字のとおり、
労災保険の「給付」の「基礎」となる「日額」です。
労災保険の給付には、お仕事をお休みした場合の給与補償である休業(補償)給付や、後遺障害が残り将来得られるはずだった給与を得られなくなった分の補償である障害(補償)給付など、労災事故に遭い、本来得られていた給与が得られなくなったことへの補償のための給付があります。
これらの給付は、本来得られていたはずの給与の補償のための給付なわけですから、「労災事故に遭わずに普通に働けていた場合にどれくらいの給与が得られていたかを計算」し、それをもとに給付されることになります。
この、「労災事故に遭わずに普通に働けていた場合にどれくらいの給与が得られていたかを計算」するための基礎となるのが、給付基礎日額というわけです。
以下では、弁護士&社会保険労務士の木村治枝の解説に基づき、実際に事例別に給付基礎日額がどのように決定されるのかを見ていきます。
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- 事例1:Aさん(正社員 月収50万円)の場合
- 事例2:Bさん(アルバイト・パート 時給1000円 1日8時間勤務 週3日)の場合
- 事例3:Cさん(日雇い労働 日給1万円)の場合
- よくある質問1 給付基礎日額は一度決まるとずっと固定なのですか?
- よくある質問2 給付基礎日額の最低限度額ってあるのですか?
- よくある質問3 給付基礎日額の最高限度額ってあるのですか?
- よくある質問4 労災事故前3か月間に事情があって働けなかった期間がある場合は給付基礎日額はどうなるのですか?
- よくある質問5 ボーナス・特別給与は給付基礎日額で考慮されないんですか?
- 給付基礎日額が変わると何が変わる?
- 労災で受け取れる保険金額でお悩みの方は弁護士&社会保険労務士の木村治枝が無料相談に応じます
事例1:Aさん(正社員 月収50万円)の場合
そもそも、労災事故に遭わずに普通に働けていた場合は起こり得なかった想定の話をしているわけですから、どれくらいの給与が得られていたかは厳密に言えば分かりません。
ですが、労災保険給付の対象者は労働者です。特に正社員の方は、日本の場合基本的には定額で給料をもらっていることが多いですので、一定の予測を立てることはできます。
労働者災害補償保険法及び労働基準法には次のような規定があります。
労働者災害補償保険法第8条「給付基礎日額は、労働基準法第十二条の平均賃金に相当する額とする。」
労働基準法第12条「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。」
「これを算定すべき事由の発生した日」とは、原則としては労災事故が発生した日、又は(疾病の場合は)医師の診断で疾病にかかったことが確定した日になります。
ただし、「賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する」(労働基準法第12条第2項)ことになります。
8月に労災事故が発生したとすると、これを算定すべき事由の発生した日以前の三箇月間とは、5月・6月・7月ということになりますね。
Aさんは毎月定額で50万円の給料を貰っていますから、労災事故前3か月間で支払われた給与の合計は、50万円×3=150万円です。
これを、その期間の総日数で除すことで、給付基礎日額は算定できます。
5月は31日、6月は30日、7月は31日ですから、総日数は92日です。
150万円÷92日≒1万6304円 Aさんの給付基礎日額は1万6304円となります。
事例2:Bさん(アルバイト・パート 時給1000円 1日8時間勤務 週3日)の場合
アルバイト・パートの方にも労災保険による給付は支給されます。
BさんもAさんと同様の方法で、給付基礎日額を算定してみましょう。
時給1000円×8時間=8000円ですから、日額は8000円です。
週3日勤務ということは、1か月(4週間)で、12日勤務するわけですから、
8000円×12日で、月額96000円ということになりますね。
Aさんと同じく8月に労災事故が発生したとすると、事故前3か月間の総日数は92日ですから、
Bさんの給付基礎日額は、(月額9万6000円×3か月=)28万8000円÷92日≒3130円ということになりそうです。
ですが、この計算方法は、実態に則したものと言えるでしょうか?Bさんは事故前3か月間で12日×3=36日分しか働いておらず、36日分の給与しか受け取っていないにもかかわらず、92日間働いたものとして計算されてしまっており、実際貰っている給料よりかなり少なくなってしまっています。
このような事例でも実態に則した給付基礎日額を算定するために、労働基準法第12条には但し書きがあります。
労働基準法第12条「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
Bさんの事例でこの但し書きについてみてみましょう。
「賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額」は、月額96000円を12日で割った8000円ということになります。
この8000円の百分の六十(60%)とは、8000×60%=4800円です。
その金額(これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額)は、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十を下ってはならないわけです。
しかし、Bさんの事例では、その金額は、3130円になってしまっていて、4800円を下ってしまっています。
このような場合には但し書きが適用され、4800円を給付基礎日額とします。
事例3:Cさん(日雇い労働 日給1万円)の場合
労災保険給付というのは、雇用形態や労働時間に関係なくなされるものですので、1日だけの日雇い労働者であっても、仕事中または通勤中に事故に遭えば、労災保険の適用対象となります。
では、日雇い労働のCさんについては、具体的にどのように給付基礎日額を算定することになるでしょうか。
日雇い労働の給付基礎日額については、正社員、パート・アルバイトとは異なった計算方法を用いることになっていますので、それぞれの計算方法を見ていきましょう。
① 休業する以前1か月間に労災発生時に雇われていた事業場において使用された期間がある場合
日雇い労働者のCさんが、はじめての事業場で労災事故被害にあったのではなく、1か月以上前から働いていた職場で労災事故に遭ってしまったという場合は、下記のような計算式となります。
「使用中に支払われた賃金の総額÷労働日数×0.73」
例えば、日雇い労働者Cさんが8月に労災事故に遭ってしまったが、7月以前から日給1万円で合計36日働いていたという場合、
「使用中に支払われた賃金の総額36万円÷労働日数36日×0.73=給付基礎日額7300円」
と計算されることになります。
② ①の方法による計算ができない場合(≒働き始めた頃の労災事故の場合)
日雇い労働者Cさんが、8月1日に労災事故に遭ってしまったが、7月以前には当該事業場で働いたことがなかったという場合には、「使用中に支払われた賃金の総額÷労働日数×0.73」の計算式は使うことができないとされています。
こうした事例においては、
「労災発生前1か月間に事業場において同一業務に従事した日雇い労働者に対して支払われた賃金の総額÷労働日数×0.73」
の計算式で給付基礎日額を算定することとされています。
例えば、労災事故前月(7月)の1か月間、Cさんが労災事故被害に遭った事業場にて、Cさんと同じ仕事に従事していた日雇い労働者としてDさん・Eさん・Fさんの3名がいたとします。
Dさんは15日働いて16万5000円・Eさんは13日働いて12万3500円・Fさんは20日働いて21万6000円を、それぞれ7月の合計賃金として得ていました。
こうした事例においては、
「労災発生前1か月間に事業場において同一業務に従事した日雇い労働者に対して支払われた賃金の総額50万4500円÷労働日数48日×0.73=給付基礎日額7673円」
と計算されることになります。
③ ①②の方法による計算ができない場合(≒働き始めた頃の労災事故+労災発生前の1か月間で同一業務に従事していた日雇い労働者がいない場合)
日雇い労働者Cさんが、8月1日に労災事故に遭ってしまったが、7月以前には当該事業場で働いたことがなかったという場合で、かつ、7月にCさんと同じ仕事に従事していた他の日雇い労働者もいないという事例では、
「都道府県労働局長が定める金額」
を給付基礎日額とするとされています。
④ ①又は②の方法による計算ができるが、日雇い労働者Cさんが当該給付基礎日額を不適当と判断した場合
日雇い労働者Cさんが、①又は②の計算による給付基礎日額が不適当だと判断した場合は、労災申請をした都道府県労働局長が給付基礎日額を定めるとされています。
従いまして、日雇い労働者が給付基礎日額について不適当と判断した場合の給付基礎日額は、③と同様
「都道府県労働局長が定める金額」
が給付基礎日額になります。
⑤ ①又は②の方法による計算ができるが、日雇い労働の使用者側が当該給付基礎日額を不適当と判断した場合
日雇い労働者Cさんを雇る使用者側が、①又は②の計算による給付基礎日額が不適当だと判断した場合は、労災申請をした都道府県労働局長が給付基礎日額を定めるとされています。
従いまして、使用者が給付基礎日額について不適当と判断した場合の給付基礎日額は、③④と同様
「都道府県労働局長が定める金額」
が給付基礎日額になります。
⑥ 一定の事業又は職業について都道府県労働局長が日雇い労働者の平均賃金を定めている場合
こうした事例では、①~⑤にかかわらず、
「当該事業又は職業について都道府県労働局長が定めた日雇い労働者の平均賃金」
が給付基礎日額となります。
よくある質問1 給付基礎日額は一度決まるとずっと固定なのですか?
Q.給付基礎日額は一度決まるとずっと固定なのですか?
A.違います。
労災保険給付の中には、第1級から第7級までに該当する後遺障害が残存したことにより、将来にわたって働けなくなったことに対する障害(補償)年金のように、毎年給付基礎日額の〇日分という形で支払われる給付があります。
また、労災事故によって負った怪我の治療が長引き、休業(補償)給付の受給が長期間に及ぶこともあります。
このような場合に、事故前3か月間に得た給与を常に給付基礎日額とし続けるのは、実態に則しているとは言えません。
なぜなら、勤務を続けていくうちに昇給することが考えられますし、アルバイト・パートの方のようなケースでは、正社員登用されることも考えられます。
将来にわたって仕事を続けていくことで稼得能力が向上することを反映するために、労働者の賃金水準の変動に基づく一定の率(スライド率)を乗じることとされています。
令和6年8月1日~令和7年7月31日までの期間に対して支給される労災年金給付等に係る給付基礎日額とのスライド率は、令和6年7月26日厚生労働省告示第247号で決定されています。
例えば、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの期間内に労災事故被害に遭った事例を考えてみましょう。
この方の令和6年7月31日までの給付基礎日額が1万円とし、障害等級第1級の障害が残存していたとします。
障害等級第1級の方の障害(補償)年金は、毎年 給付基礎日額の313日分ですから、1万円×313日=313万円となります。
令和2年4月1日から令和3年3月31日までの期間に労災事故被害に遭った方の、令和6年8月1日から令和7年7月31日までの期間のスライド率は、104.0%です。
したがって、令和6年8月1日から令和7年7月31日までの1年間に支給される障害(補償)年金は、
給付基礎日額1万円×スライド率104%×313日=325万5200円となります。
このように、毎年8月に、次の1年間の給付基礎日額に乗じるスライド率が決定され、毎年給付基礎日額は変更になります。
よくある質問2 給付基礎日額の最低限度額ってあるのですか?
Q.給付基礎日額の最低限度額ってあるのですか?
A.あります。
「労災保険制度で用いる給付基礎日額については、原則として労働基準法第12条に規定する平均賃金に相当する額とされていますが、被災時の事情により給付基礎日額が極端に低い場合を是正し、補償の実効性を確保するため、その最低保障額である自動変更対象額を定めることとしています。」(厚生労働省ホームページ)より引用
令和5年7月28日厚生労働省告示第242号により、令和5年8月1日から適用される最低保証額(自動変更対象額)は、4,020円とされています(改訂前は3,970円です)。
上で見たような給付基礎日額の算定方法を用いて算定した結果、この最低保証額を下回った場合は、給付基礎日額は最低保証額となります。
よくある質問3 給付基礎日額の最高限度額ってあるのですか?
Q.給付基礎日額の最高限度額ってあるのですか?
A.(一部)あります。
よくある質問1で説明したような、障害(補償)年金のように毎年給付される労災保険給付を貰い続けている場合や、労災事故によって負った怪我の治療が長引いたことで、休業も長引き、休業(補償)給付をしばらくもらい続けているような場合は、被災時の年齢による不均衡の是正を図ることなどのため、その算定に係る給付基礎日額について、年齢階層別の最低・最高限度額が設けられています。
なお、年齢階層別の最低限度額が、よくある質問②で説明した最低保証額を下回る場合は、②の最低保証額が給付基礎日額となります。
令和5年7月28日厚生労働省告示第241号により、令和5年8月1日から令和6年7月31日までの期間に対して支給される給付基礎日額の年齢階層別の最低・最高限度額が設定されていて、次回変更されるのは令和5年8月1日になります。
よくある質問4 労災事故前3か月間に事情があって働けなかった期間がある場合は給付基礎日額はどうなるのですか?
Q.労災事故前3か月間に事情があって働けなかった期間がある場合は給付基礎日額はどうなるのですか?
A.その事情が特定の事情である場合は、考慮されます。
給付基礎日額の算定は、原則としてその算定すべき事由の発生した日の直前3か月の賃金の総額を、その期間の総日数で除すことで行われますが、その直前3か月の期間に、特定の事情があって働けなかったような場合にもこの原則を適用するのは労働者に対して不利に作用します。
したがって、直近3か月に働けなかった期間がある場合、その期間の賃金と日数は、算定には入れません。
直近3か月に働けなかった期間に含まれる期間は以下のとおりです。
・業務災害の治療を受けるために休業している期間
・産前産後休暇期間
・育休期間
よくある質問5 ボーナス・特別給与は給付基礎日額で考慮されないんですか?
Q.ボーナス・特別給与は給付基礎日額で考慮されないんですか?
A.原則(※)考慮されません。
労災保険給付の算定に用いられる給付基礎日額に、ボーナスや特別給与は考慮されません。
しかし、特別支給金と呼ばれるものの算定にはボーナスや特別給与が考慮されます。これを、算定基礎日額といいます。
算定基礎日額は労働者災害補償保険特別支給金規則(労働省令第三十号)で次のように規定されています。
「第六条 第二条第四号から第八号までに掲げる特別支給金の額の算定に用いる算定基礎年額は、負傷又は発病の日以前一年間(雇入後一年に満たない者については、雇入後の期間)に当該労働者に対して支払われた特別給与(労働基準法第十二条第四項の三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金をいう。以下同じ。)の総額とする。ただし、当該特別給与の総額を算定基礎年額とすることが適当でないと認められるときは、厚生労働省労働基準局長が定める基準に従つて算定する額を算定基礎年額とする。
6 第二条第四号から第八号までに掲げる特別支給金の額の算定に用いる算定基礎日額は、前各項の規定による算定基礎年額を三百六十五で除して得た額を当該特別支給金に係る法の規定による保険給付の額の算定に用いる給付基礎日額とみなして法第八条の三第一項(法第八条の四において準用する場合を含む。)の規定の例により算定して得た額とする。
7 算定基礎年額又は算定基礎日額に一円未満の端数があるときは、これを一円に切り上げるものとする。」
つまり、基本的には、労災事故発生の日以前の1年間に支払われたボーナスや特別給与の総額を365日で割ったものを算定基礎日額というわけです。
2項から5項には、単に労災事故発生以前の1年間に支払われたボーナスや特別給与の総額を365日で割ったものを算定基礎日額とすべきでない場合を規定しています。
具体的には、
・ボーナス、特別給与の総額が、給付基礎年額(給付基礎日額×365日)の20%を超える場合は、算定基礎年額は、給付基礎日額の20%と同額とする。
・算定基礎年額は、150万円を上限とする。
といった内容です。
この算定基礎年額は、特別支給金と呼ばれるものの算定の際に用いられます。
具体的には、
- 障害特別年金
- 障害特別一時金
- 遺族特別年金
- 遺族特別一時金
- 傷病特別年金
です。
給付基礎日額が変わると何が変わる?
上で見たように、様々な要因で決定され、また変更される給付基礎日額ですが、
実際のところ、給付基礎日額が変わると何が変わるのでしょうか?
対象となる給付は以下の通りです。
- 休業(補償)給付
- 休業特別支援金
- 障害(補償)年金
- 障害(補償)一時金
- 遺族(補償)年金
- 遺族(補償)一時金
- 葬祭料等
- 傷病(補償)年金
これらの給付の金額は、全て給付基礎日額をもとに決定されていますので、給付基礎日額が変わると給付金額が決まります。
労災で受け取れる保険金額でお悩みの方は弁護士&社会保険労務士の木村治枝が無料相談に応じます
弁護士法人小杉法律事務所(小杉法律事務所労災専門の弁護士事務所)では、弁護士資格のみならず、社会保険労務士(社労士)資格を有する木村治枝が、労災被害専門の弁護士兼社労士として執務しております。
業務中に労災事故に遭ってしまった方、通勤中に交通事故被害に遭ってしまった方について、無料で法律相談を実施しておりますので、ご連絡ください。