業務災害 死亡
【業務災害・労災死亡事故】民事裁判にて過失割合を逆転させ勝訴判決を獲得した事例
Eさん 20代・男性・会社員(神奈川県)
新聞配達員の方の業務災害事故(死亡事故)です。
Eさんは、いつものように原動機付自転車に乗り、朝刊を配達していました。
しかし、Eさんが交差点を右折する際、向かいから走ってきたバイクに衝突され、帰らぬ人となってしまいます。
直進車vs右折車の事故の場合、右折車の方が悪いとされますので、加害者の側は1円も賠償金額を支払うつもりはないという回答でした。
ご遺族は、近隣の弁護士事務所へ相談に行きますが、どこも「難しい」という話で依頼を断っていました。
そんな中で弁護士小杉の所へたどり着きました。
ご遺族の話を聞く限り、Eさんの性格上、無茶な運転をするような性格の方ではないと判断し、過失割合を覆すだけの具体的証拠はない状況でしたが、共に裁判で戦っていきましょうということになりました。
民事裁判による勝訴(横浜地方裁判所)
裁判前の準備
事故現場調査
提訴の前に、事故現場へと向かいました。
事故現場は、直線道路が長く続く幹線道路で、だいぶ先まで見える、見通しがとても良い道路でした。
大きな道路で、直線道路が長く続くことから、制限速度(時速50㎞)以上にスピードを出しやすい道路となっていて、特に新聞配達の時間帯である深夜・早朝は、通行車両も少ないことから、飛ばしている車やバイクが見られました。
これだけ見通しの良い道路ですと、Eさんとしては直進してくるバイクの存在に気付いたはずで、臆病で慎重なEさんが、右折を強行するとは考えられませんでした。
と同時に、事故の現場を見ることで、直進車両の速度オーバーが事故の原因ではないかという仮説が生まれます。
科学捜査研究所の見解(直進バイクに速度超過の事実があったことの判明)
調査したところ、加害者は不起訴処分となっていました。
不起訴処分の場合は、当事者の供述調書の開示が認められておらず、実況見分調書くらいしか入手できないことになっています。
検察への連絡をする中で、当該死亡事故の捜査に、科学捜査研究所(通称「科捜研」)が関わっていたことが判明します。
科捜研の担当者とアポイントをとることができたため、話をうかがってみると、この事故では、直進バイクが時速100㎞程度で走行していたとのことでした。
そこで、科捜研の見解を根拠に民事訴訟を提起しました。
裁判中のやりとり
被告の主張
被告からは、被告に速度超過があったとしても、時速100㎞とする主張には根拠がなく、せいぜい時速10㎞超程度の速度オーバーであり、右折進行車である原告側に大きな過失がある事案であるとの主張がなされました。
被告の主張の裏付けとして鑑定意見書も提出され、物理の公式など専門的な説明がなされた上で、原告側に大きな過失のある事案であるとの結論が記されていました。
また、死亡という大きな結果となってしまったのは、原告のヘルメットの性質のせいであり、また、装着方法が不十分であったことに起因するとの主張もなされました。
科捜研の報告書にて反論
被告側提出の鑑定意見書は難解なもので、素人には理解困難な内容となっていました。
そこで、提訴前に話をしていた科捜研の方に、この鑑定意見書を送ってみることにしました。
そうしたところ、当該鑑定意見書は内容が間違っている旨の報告書を作成してくださり、当方に送ってくれました。
科捜研の報告書によれば、直進車の速度は時速100㎞~115㎞であり、その時速を割り出した根拠を明確に示してくれています。
勝訴判決
Eさんは死亡しているため、尋問が行われることなく結審となりました。
そして、判決が出されました。
内容を見ると、
- 被告提出の鑑定意見書における速度の推計は相当でないから採用することができず、科捜研の報告書における速度の推計は、パラメータ(変数)に本件の各証拠から認められる数値を代入してされたものであり、相当であるとして、直進バイクの速度が時速100㎞~115㎞であったと推認され、制限速度である時速50㎞をはるかに超過していた。
- 被害者は、道路交通法第71条の4のヘルメット着用義務に違反しておらず,道路交通法施行規則9条の5第1号~第7号の乗車用ヘルメットの基準を満たしたヘルメットを装着していた
との判決内容となっており、加害者サイドから言われていた過失割合の逆転に成功しました。
また、死亡慰謝料額や死亡逸失利益の額も、陳述書の提出などによって、裁判基準を超える額が認定され、全面的な勝訴判決となりました。
死亡事故は専門の弁護士に依頼するべき
死亡事故は「死人に口なし」という言葉のとおり、被害者が声を発することができないという特殊性があります。
ですので、客観的証拠の収集作業が他の労災事故よりも重要となります。
戦わずして諦めてしまったのでは故人も浮かばれませんので、労災死亡事故については、まずは専門の弁護士に相談されることをおすすめします。