労災保険別 遺族(補償)給付
労災遺族年金はいつまでもらえる?弁護士が解説!
2024.07.24
被災者が労災(労働災害)で亡くなった場合にご遺族が受給可能な遺族(補償)年金。
この年金は単に相続人であれば無期限に受給可能というわけではありません。
受給条件や受給可能期間について労災被害者専門弁護士が解説します。
労災遺族年金の受給条件
まず初めに確認しなければならないのは、労災遺族年金の性質とその受給条件です。
労災遺族年金は、労働災害補償保険法の第12条の8の4に規定のある遺族補償給付または、
同法第21条の4に規定のある遺族給付の一部になります。
この遺族補償給付と遺族給付は、業務災害により被害者が亡くなった場合の給付が遺族補償給付、
通勤災害により被害者が亡くなった場合の給付が遺族給付という違いがあります。
支給条件や時期などについて差異はありませんので、今回は遺族補償給付をメインに見ていきます。
労働者災害補償保険法第16条「遺族補償給付は遺族補償年金又は遺族補償一時金とする」
この条文のとおり、遺族補償給付の中の1つが遺族補償年金というわけですね。
遺族補償年金と遺族補償一時金の違いは支給資格です。
遺族補償一時金は後述しますが、遺族補償年金の受給権者になることができる人がいなかった場合のみ支給されます(第16条の6の1「遺族補償年金は、労働者の死亡の当時の遺族補償年金を受けることができる遺族がないときに支給する。」)。
ですから、遺族補償年金を受給するためにはまず受給資格者に該当する必要があります。
受給条件は以下のとおりです。
1 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたもの
この条件は必須です。
労働者災害補償保険(労災保険)は、その法の第1条に規定のあるとおり、
「労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。」
という保険です。
つまり、当然ですが保険給付には労働が前提となっています。
労働者が亡くなったことにより、「その労働で得られていた収入が得られなくなって」不利益を被る方に対しての給付というわけです。
交通事故などがイメージしやすいですが、被害者の方が亡くなった場合に行う損害賠償請求は、
相続人であれば当然に損害賠償請求権が発生し、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたかどうかは関係がありません。
また、自賠責保険による保険金の支払も、相続人であれば請求が可能です。
この違いが、労災遺族年金の大きな特徴と言えます。
この生計維持関係の具体的な証明として最も大きいのは、ご遺族が被災労働者と同居していた場合です。
住民票などの記載というよりは、実際に同居していたかどうかがポイントとなります。
また、仮に同居していなくても、生活費や療養費などの経済的な援助が行われていたり、
お互いが定期的に音信や訪問を行っていたりするような事情があれば、生計維持関係があったと認められる場合があります。
ここでいう生計維持関係は、主として被災労働者の収入によって生計を維持している必要はなく、
一部分を維持しているようないわゆる共働きの場合も含まれます。
2 被災労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であること
これが2つ目の条件ですが、それぞれに細かい限定があるので見ていきましょう。
配偶者
遺族補償年金の受給権者が妻(つまり亡くなったのが夫)の場合は細かい限定はありません。
遺族補償年金の受給権者が夫(つまり亡くなったのが妻)の場合は、夫が60歳以上でなければなりません。
また、ここでいう配偶者は内縁の配偶者を含みますが、逆に配偶者であっても、長期間別居しているなどの事実上離婚状態にあった配偶者は含まれません。
父母
60歳以上でなければなりません。
子・孫
18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間の年齢でなければなりません。
兄弟姉妹
18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間の年齢であるか、60歳以上でなければなりません。
障害があること
ただし、上記の条件に該当しない場合も、厚生労働省令で定める障害の状態(労災保険でいう障害等級5級以上に該当する障害を有しているか、
ケガや病気が治らないで身体の機能又は精神に高度な制限を受けているもしくは労働に高度な制限があるといった障害を有している場合)にある場合は、
受給権者となることができます。
これらの条件を見ると、就労可能な場合は自身で生計を維持できるため、遺族年金の支給対象とならないという考え方が見て取れ、
やはり労働者災害補償保険による給付は「労働」を前提としていることがお分かりかと思います。
上記のようなそれぞれの細かい条件がある中で、さらに支給には優先順位が規定されています(労働者災害補償保険法第16条の2の3)。
優先順位が高い受給権者が存在する場合は、順位が低い受給権者は給付を受け取ることができません。
順位は以下のとおりです。
1位 | 妻・60歳以上の夫・障害の状態にある夫 |
---|---|
2位 | 18歳になってはじめて迎える3月31日までの子・障害の状態にある子 |
3位 | 60歳以上の父母・障害の状態にある父母 |
4位 | 18歳になってはじめて迎える3月31日までの孫・障害の状態にある孫 |
5位 | 60歳以上の祖父母・障害の状態にある祖父母 |
6位 | 60歳以上の兄弟姉妹・18歳になってはじめて迎える3月31日までの兄弟姉妹・障害の状態にある兄弟姉妹 |
7位 | 55歳以上60歳未満の夫 |
8位 | 55歳以上60歳未満の父母 |
9位 | 55歳以上60歳未満の祖父母 |
10位 | 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹 |
これらの受給要件を満たす場合にのみ、遺族補償年金を受けることができます。
なお、先ほど配偶者の受給条件の際にあった「妻に細かい限定はないが、夫は60歳以上でなければならない」という点については、
令和6年4月ころに東京都の男性が東京地裁に対し、「これは不当な差別であり、憲法違反だ」と主張し、国に不支給処分の取消を求める提訴をしています。
(NHKニュース 「労災で妻亡くした夫 遺族補償年金不支給 男女差別で違憲と提訴)
この七年前にも同様の趣旨の裁判があり、その際は最高裁判所は「男女間の労働力人口の違いや賃金の差があることなどから憲法に違反しない」という判断を下していますが、
昨今の共働き世帯の増加などの事情変化がこの判断に影響するかが注目されます。
労災遺族年金はいつまでもらえる?
ここまで見てきたような複雑な受給要件を満たすことで労災遺族補償年金がようやく受給可能になります。
この遺族補償年金がいつまで受給できるかは第16条の4に規定があります。
- 遺族が死亡したとき
- 遺族が婚姻したとき(事実上の婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)
- 直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき
- 離縁によって死亡した労働者との親族関係が終了したとき
- 子、孫又は兄弟姉妹については18歳に達した以後の最初の3月31日が終了したとき(障害の状態にある場合を除く)
- 障害の状態にあるものがその事情がなくなった時
といった状態が挙げられます。
基本的には労働者の収入によって生計を維持している関係性が終了したときに終了するというイメージで良いと思います。
上のような事情により現在の受給権者が受給権者でなくなった場合は、次の順位の遺族が繰り上がって支給を受けることになります。
なお、夫、父母、祖父母、兄弟姉妹で受給権者となる方が、
被災労働者の死亡時に55歳以上60歳未満の場合は、60歳に達するまでは労災遺族年金の支給を受けることはできません(これを「若年停止」といいます。)。
労災遺族年金の支給額は?
労災遺族年金の支給額は以下の通りです。
遺族数 | 遺族(補償)年金 | 遺族特別年金 | 遺族特別支給金 |
---|---|---|---|
1人 | 給付基礎日額の153日分 ※55歳以上の妻又は障害状態にある妻の場合は175日分 |
給付基礎日額の153日分 ※55歳以上の妻又は障害状態にある妻の場合は175日分 |
300万円 |
2人 | 給付基礎日額の201日分 | 給付基礎日額の201日分 | 300万円 |
3人 | 給付基礎日額の223日分 | 給付基礎日額の223日分 | 300万円 |
4人以上 | 給付基礎日額の245日分 | 給付基礎日額の245日分 | 300万円 |
なお、同順位の受給権者がいる場合(遺族数が複数の場合)は、その人数で割った金額が支給されます。
労災遺族年金の時効はある?
労災遺族年金は支給請求ができるようになった時点から5年を経過すると、請求権が時効によって消滅します。
会社や加害者に対して損害賠償請求をする場合には、
会社や加害者との示談・和解の際に「乙は甲に対し、本件労災事故に関して、労働者災害補償保険法に基づく過去及び将来の給付金並びに乙の甲に対する既払金とは別に、
解決金として金●●●●万円の支払義務があることを認める。」との条項を入れておけば、
会社や加害者に対する損害賠償請求が解決した後の分の遺族(補償)給付を受け取ることができるようになりますが、
時効には注意が必要です。
労災遺族年金の前払いはある?
遺族(補償)年金を受給することになった遺族は、
1回に限り年金の前払いを受けることができます。
先ほど述べた若年停止により支給が停止されている方も前払いを受けることができます。
- 給付基礎日額の200日分
- 給付基礎日額の400日分
- 給付基礎日額の600日分
- 給付基礎日額の800日分
- 給付基礎日額の1000日分
のなかから希望する額を受け取ることができますが、
遺族補償年金は前払い一時金の額に達するまでの間支給が停止になります。
ご遺族の生活状況などによりメリットデメリットを考慮したうえで選択する必要がありますね。
遺族補償年金を受けることができない場合は?
ここまで見てきたように、遺族補償年金は受給条件がなかなか厳しいため、
受けることができるご遺族の方がいないという場合も考えられます。
この場合には、年金ではありませんが遺族補償一時金という支給金が支払われることになります。
遺族補償一時金の受給権者とその順位は以下のとおりです。
- 配偶者
- 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子、父母、孫及び祖父母
- 前号に該当しない子、父母、孫及び祖父母並びに兄弟姉妹
年金と比べると当然ですが受給条件は緩いですね。
遺族補償一時金の支給額は以下のとおりです。
遺族(補償)一時金 | 遺族特別一時金 | 遺族特別支給金 |
---|---|---|
給付基礎日額の1000日分 | 給付基礎日額の1000日分 | 300万円 |
労災就学等援護費制度とは?
被災労働者が亡くなったことによってそのお子様が学費の支払いが困難になる場合があります。
遺族年金は生活費に充てられることも多いでしょうから、学業に充てるお金がないということも十分にあり得ます。
このような場合に、遺族年金と別に労災保険からお支払があるのが、「労災就学等援護費制度」です。
具体的な支給額は以下のとおりです。
被災労働者のお子様が小学生 | 月額1万2000円 |
お子様が中学生 | 月額1万6000円 |
お子様が高校生等 | 月額1万6000円 |
お子様が大学生等 | 月額3万9000円 |
お子様が通信制の中学・高校等に通学している場合 | 月額1万3000円 |
お子様が通信制の専修学校に通学している場合 | 月額3万円 |
お子様が通信制の大学に通学している場合 | 月額3万円 |
平成25年度より通信制の場合も支給対象となっています。
利用して損はありませんので、お近くの労働基準監督署へのお問い合わせをお勧めします。
遺族年金は社労士や専門弁護士に相談しましょう
ここまで見てきたように、労災の遺族年金については複雑な支給要件があります。
また、遺族年金の支給決定は、会社や加害者に対する損害賠償請求とも密接にかかわります。
ご不安をお抱えの方はぜひ一度社労士や専門弁護士にご相談されることをお勧めします。
弁護士法人小杉法律事務所では、社労士兼労災被害者専門弁護士の木村治枝をはじめ、
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