労災コラム

裁判・労働審判

裁判ではない紛争解決|【労働審判】のメリットとは?(弁護士解説)

2024.04.17

労働審判 用語説明

労働者と雇用者との間の紛争・トラブルは、日々、あらゆる場所で、様々な形で発生しています。

こういった紛争・トラブルは示談による解決が出来なかった場合には、2004年3月までは、裁判をはじめとする一般的な司法手続きによる解決がされていました。

しかし、2004年4月に制定された労働審判法により、「労働審判」という画期的なシステムが導入され、同法が施行された2006年4月以降、裁判所を介する労働関係紛争解決の中心は、労働審判手続へと移行していきます。

労働審判手続の何が優れているのか?裁判ではなく労働審判を選ぶメリットとは?

社労士資格も有する弁護士木村治枝の労働審判手続についての解説をご紹介していきます。

 

弁護士法人小杉法律事務所では、会社とのトラブルに巻き込まれてしまった労働者被害者専門の法律事務所として、これまで裁判・労働審判・示談による解決実績を多数有しています。

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そもそも労働審判とは?

労働審判法第1条

そもそも労働審判とはどういった手続なのでしょうか?

まずは、法律上の文言を見ていきましょう。

労働審判法第1条には次のような規定があります。

この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。以下同じ。)を行う手続(以下「労働審判手続」という。)を設けることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。

労働審判の対象

まず、労働審判の対象となるのは「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業者との間に生じた民事に関する紛争」とされています。

つまり、事業者と労働組合のような団体の間の紛争や、労働者の横領といった刑事に関する紛争は対象となりません。

具体的には、「解雇、雇止め、配転、出向、賃金・退職金請求権、懲戒処分、労働条件変更の拘束力、等々をめぐる、個々の労働者と事業主との間の権利紛争」(『菅野和夫著 法律学講座双書 労働法第十一版』より引用)を対象としています。

労働審判制度導入の目的

次に、労働審判の目的は、「紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ること」とされています。

労働審判の対象となる紛争(個別労働関係民事紛争)は、労働審判の制度が導入される以前には、上でも述べたように示談による解決が出来なかった際には裁判をはじめとする一般的な司法手続で解決を図ることになっていました。

しかし、個別労働関係民事紛争は、増加の一途をたどるとともに、それぞれの案件に専門的な知識を必要とするため、一般的な司法手続による解決は非常に長い期間を要してしまっていました。

そこで、まさに「実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ること」を目的とし、労働審判の制度が導入されたのです。

労働審判はどういう手続でなされるのか?

「紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ること」という目的を達成するためには、やはり特別な手段が必要になります。

その手段として設置されるのが、「裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会」です。

委員会は、裁判所の裁判官から指定された労働審判官1名と、最高裁判所が労働審判員規則に則って選出する、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名の計3名で組織されます。

委員会内の合議においては、決議は過半数の意見により、それぞれの持つ一票の重みに差はありません。

労働審判とは

以上の点から、労働審判とは、「対象を一般の民事紛争から個別労働関係の民事紛争に絞り、その専門的な知識経験を有する委員会を設置し、個別労働関係民事紛争解決のために特化することで、迅速、適切かつ実効的な解決を図ること」を目的として設置された制度ということになります。

 

労働審判を利用するメリットとは?

メリット1 何と言っても解決までが早い

労働審判を利用する最大のメリットは、何と言っても解決までが早い事です。

労働審判法第15条をみると、

1 労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。

 2 労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。
とされています。
労働審判の対象となるような、個別労働関係民事紛争は、労働者の生活をかけた紛争です。
例えば、解雇の可否などが争いになった場合、労働者は既に解雇を受け、その解雇が不当であるとして雇用者と争っているということになります。
つまり、紛争解決の結果がどうであれ、結果が出るまでは本人が他の職を探さない限り、労働者は無職者ということです。
一刻も早く紛争を解決しなければ、労働者は生活が成り立たなくなる可能性がありますし、雇用者の側が審理を引き伸ばして労働者に圧をかけるといった可能性もあります。
それを防ぐために、労働審判手続は、原則3回以内の期日で審理を終結することになっているのです。
少し古いデータになりますが、裁判所公式ホームページで掲載されているデータをみると、労働関係訴訟(労働審判ではない)の平均審理期間は、11.5月とされています。
一方で、同じく裁判所公式ホームページをみると、労働審判について「平成18年から令和元年までに終了した事件について,平均審理期間は77.2日であり,70.5%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。」と記載されていて、いかに労働審判の審理期間が短いかが分かると思います。

メリット2 調停(話し合い)による解決をすることができる

メリット1でみたように、労働審判制度は迅速、適正かつ実効的な解決を目的とした制度ですので、審判の前段階の話し合いでお互いに譲歩しあい、紛争解決が見込めそうな場合は、調停(話し合い)による解決ができることになっています。

この調停による解決は、裁判上の和解と同一の効力を持つとされています。

具体的には、調停が話し合いがまとまったにもかかわらず、相手方が調停内容記載の解決金を支払わないという場合は、裁判手続を経ることなく、強制執行手続をして、強制的に解決金を支払わせることができます。

 

メリット3 決裂しても、訴訟手続に自動的に移行できる

第3回目までの期日を経ても調停による解決ができなかった場合、委員会から審判が下されます。

この審判では、「当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じ、その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる」ことになっています(労働審判法第20条2項)。

しかし、この審判が下されても当事者の一方が受諾せず、紛争が解決しなかったときは、受諾しなかった当事者は審判の日から2週間以内であれば異議を申し立てることができます。

この異議申し立てが行われると、審判は効力を失いますが、自動的に訴訟手続に移行することができます。

つまり、労働審判手続の中で行われた紛争解決に向けての取り組みは無駄にはならず、たとえ審判が効力を失ったとしても、民事訴訟の基礎として次の司法手続においても活かすことができます。

 

労働審判手続には重大な懸念点がある?

ここまで見てきたように、労働審判手続は多くのメリットがあります。

特に、早期解決を図る場合にはそのメリットは殊更大きくなります。

しかしながら、労働審判手続は一つ、重大な懸念点があります。

以下ではその重大な懸念点について解説します。

 

適切な解決のためには知識と入念な準備が必須

労働審判手続の最も重大な懸念点は、第1回目の期日で勝負の大半が決まってしまうことです。

これは、労働審判手続のメリット1 何といっても解決までが早い の裏返しとも言えます。

原則3回の期日で審理を終結しなければならないわけですから、3回の間に適正かつ実効的な解決を図るためには、第1回目の期日で効果的な主張や証拠を提出しておかなければ十分な審理が尽くされません。

実務上の運用で言うと、第1回目の期日で双方の主張と証拠を踏まえて争点の整理が行われ、第2回、第3回の期日では話し合いでの解決を試みるという運用が多いです。

第2回、第3回で新たな主張や証拠を出したとしても、3回の期日でそれらを十分に検討することはできません。

したがって、申立人は相手方から提出される答弁書や証拠をしっかりと検討し、的確な主張をするとともに、的確な証拠を提出しなければなりません。

つまり、申立人には、事案の概要を整理し、申立ての前段階で証拠を収集しておくだけでなく、高度な法律の知識も要求されます。

 

ですので、労働審判の申立てをする際には専門の弁護士へ相談することが望ましいといえます。

裁判所の公式ホームページでも、「弁護士に依頼するかどうかは,最終的には,自分の意思で決めていただくことになりますが,このように,労働審判手続による解決に適した事案かどうかを適切に見極め,申立ての段階から十分な準備をし,期日において状況に応じた的確な主張,立証を行うためには,必要に応じて,法律の専門家である弁護士に依頼することが望ましいでしょう。」と記載されています。

 

労働審判による適切な解決のためには知識と入念な準備が必須です。

当事務所には、社労士の資格も有する、労災被害者専門弁護士が在籍していますので、労働審判の利用をお考えの方はぜひ一度ご相談ください。

ご相談は無料になります。

労災事故に関するお問い合わせはこちらのページへ。

この記事の監修者弁護士

小杉 晴洋 弁護士
小杉 晴洋

被害者側の損害賠償請求分野に特化。
死亡事故(刑事裁判の被害者参加含む。)や後遺障害等級の獲得を得意とする。
交通事故・学校事故・労災・介護事故などの損害賠償請求解決件数約1500件。

経歴
弁護士法人小杉法律事務所代表弁護士。
横浜市出身。明治大学法学部卒。中央大学法科大学院法務博士修了。

所属
横浜弁護士会(現「神奈川県弁護士会」)損害賠償研究会、福岡県弁護士会交通事故被害者サポート委員会に所属後、第一東京弁護士会に登録換え。日本弁護士連合会業務改革委員会監事、(公財)日弁連交通事故相談センター研究研修委員会青本編集部会。