脳の障害
高次脳機能障害の弁護士目線での解説|労災被害専門の小杉法律事務所
お仕事中や通勤途中で頭に怪我をしてしまい、寝たきりになってしまった事例や、介護が必要になってしまった事例、また、労災事故前と比べ「物忘れが多くなった・怒りっぽくなった・仕事がしづらくなった」などの事例では【高次脳機能障害】が考えられます。
ここでは弁護士法人小杉法律事務所の代表弁護士小杉が高次脳機能障害の後遺障害等級認定基準について解説していきます。
当事務所では、労災被害者の方向けに、適切な損害賠償金や後遺障害等級の無料査定を行っております。損害賠償金や後遺障害等級の無料査定についてはこちらのページをご覧ください。
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害の定義
高次脳機能障害とは、「運動障害や感覚障害などの神経学的症状に対し、失行、失認、健忘、遂行機能障害などのより高次の知的な脳機能の障害を指す」とされています(南山堂医学大辞典)。
「高次の知的な脳機能の障害」というのは、例えば、箱を組み立てるといった単純作業はできるものの、電話で聞き取った内容をパソコンに入力していくといったような仕事で要求される複雑な仕事はできないといった事態が生じます。
身体的には問題のない事例もありますが、高次脳機能障害となると、日常生活や社会適応に支障をきたすことになります。
また、高次脳機能障害の患者自身に、高次脳機能障害であることの自覚がない/自覚に乏しいといった特徴を有します。
脳の構造(脳の連合野で分担される働き)
高次脳機能障害は、脳に損傷を受けたことによって、認知、記憶、思考、注意の持続などの脳の高次脳機能と呼ばれる機能が障害されることを意味しますが、脳が損傷を受けた場所によって生じる症状が異なってきます。
ここではそれぞれの脳の構造(脳の連合野で分担される働き)を見ていきましょう。
前頭葉(前頭連合野)
前頭葉(前頭連合野)では、計画、決定、合理的な目的行動にかかわる「意志」「創造」「思考」「感情」といった機能を司っています。
従いまして、脳のうち前頭葉を損傷してしまうと、例えば、計画や決定にあたり、適切な、意志やイメージや思考や感情を形成できないことになってしまいます。
頭頂葉(頭頂連合野)
頭頂葉(頭頂連合野)では、立体感覚を組み立てたり、身体からの知的情報を受け取り、「理解」「認識」「知覚」といった機能を司っています。
従いまして、脳のうち頭頂葉を損傷してしまうと、例えば、立体感覚がわからなくなってしまったり、物を触れてもその対象物の知覚や認識や理解ができないということになってしまいます。
側頭葉(側頭連合野)
側頭葉(側頭連合野)では、音を聞き分けたり言葉を話すための「聴覚」「言語」機能を司るほかに、「判断」や「記憶」といった重要な働きも有しています。
従いまして、脳のうち側頭葉を損傷してしまうと、例えば、聴覚障害になってしまったり、言語障害になってしまったり、適切な判断ができなくなってしまったり、物事を記憶できなくなってしまったりといった障害が生じてしまうことになります。
後頭葉
後頭葉では、目から入る明暗や色などの情報を処理する「視覚」の機能を司っています。
従いまして、脳のうち後頭葉を損傷してしまうと、例えば、目から入る明暗を調整できなくなってしまったり、色の識別ができなくなってしまったりといった障害が生じてしまうことになります。
小脳
小脳では、身体の平衡を保つ身体の運動の調節機能を司っています。
従いまして、脳のうち小脳を損傷してしまうと、例えば、身体の平衡が保てなくなり、重度のめまいなどの症状が生じてしまうことになります。
脳幹
脳幹では、呼吸や血圧といった中枢機能を司っています。
従いまして、脳のうち脳幹を損傷してしまうと、例えば、呼吸障害が生じたり、血圧に障害が生じてしまうことになります。
高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害の原因としては、脳血管障害や頭部外傷、神経変性疾患、脳腫瘍、その他が挙げられています(南山堂医学大辞典)。
本サイトは医学サイトではなく、弁護士による労災被害における損害賠償請求に関するサイトですので、頭部外傷を原因とする高次脳機能障害について説明していきます。
高次脳機能障害の診断基準
高次脳機能障害は、画像検査などで客観的異常を確認できないことも多く、的確な診断は必ずしも容易ではないとされています(南山堂医学大辞典)。
脳というのは、非常に複雑で繊細な構造をしていますので、現在の医学水準における、頭部のMRIやCTなどの画像検査では、客観的な異常を発見できないことも多くあるのです。
MTBIが代表的な例ですが、アメリカの医学会では画像検査などで客観的異常が確認できなくとも、高次脳機能障害であり得ることは広く認知されていますが、日本の医学界では、アメリカほどMTBIに関する診断水準が進んでいません。
交通事故における自賠責保険会社の審査ほどではありませんが、労災においても画像検査結果に重きを置いた判断がなされています。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害では様々な症状が見られますが、ここでは後遺障害等級認定において重視されている21の症状を紹介していきます。
交通事故に遭って頭部を受傷してしまった被害者の方で、これらの症状が1つでも当てはまる場合は、高次脳機能障害として後遺障害等級認定がなされる可能性があります。
- 以前に覚えていたことを思い出せない
- 新しいことを思い出せない
- 疲れやすく、すぐ居眠りをする
- 自発性低下、声かけが必要
- 気が散りやすく、飽きっぽい
- 発想が幼児的、自己中心的
- 話がまわりくどく、考えを相手に伝えられない
- 周囲の人との意思疎通を上手に行えない
- 複数の作業を同時に行えない
- 行動を計画したり、正確に遂行することができない
- 粘着性、しつこい、こだわる
- 感情の変動がはげしく、気分が変わりやすい
- 感情や言動をコントロールできない
- ちょっとしたことですぐ怒る
- 暴言・暴力
- 性的な異常行動・性的羞恥心の欠如
- ふさぎこむ・気分が落ち込む
- 特に理由もなく不安を感じている
- 夜、寝つけない、眠れない
- 幻覚や妄想がある
- 受傷前と違っていることを自分で認めない
労働基準監督署による高次脳機能障害の分類や評価方法
脳の障害の分類(器質性の障害と非器質性の障害)
労働基準監督署では、まず、脳の障害について、器質性の障害と非器質性の障害に分類しています。
器質性/非器質性の違いは、簡単に言うと、「画像上目に見える/画像上目に見えない」といった分類のことです。
先に述べましたとおり、医学的には画像検査では発見できない高次脳機能障害の存在が認められていますが、労災実務では、頭部MRIやCT画像によって画像上脳の器質的病変の存在が認められる必要(画像上目に見える必要)があるとされています。
非器質性の障害は、うつ病・転換性障害・身体表現性障害などの精神科・心療内科等の医学領域になり、「非器質性精神障害」として後遺障害等級認定がなされます。
高次脳機能障害というのは、器質性の障害に分類されますので、以下では器質性の障害についての説明をしていきます。
脳の器質性障害の分類(高次脳機能障害と身体性機能障害)
脳の器質性障害(画像上目に見える脳損傷)については、高次脳機能障害(器質性精神障害)と身体性機能障害(神経系統の障害)に分類されています。
後遺障害等級の認定方法は、高次脳機能障害の程度と、身体性機能障害の程度及び介護の要否・程度を踏まえて、総合的に判断されることになっています。
例えば、高次脳機能障害の程度が5級に相当し、身体性機能障害の程度が軽度の片麻痺で7級に相当するといった場合、併合の方法を用いて後遺障害等級3級相当と定めるのではなく、その場合の全体病像として、後遺障害等級1級~3級のいずれかに認定することになります。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定の評価方法
4能力評価+介護の要否・程度
高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力の4つの能力の各々の喪失の程度に着目して、評価を行うことになります。
たとえば、①意思疎通能力について後遺障害等級5級相当、②問題解決能力について後遺障害等級7級相当、③作業負荷に対する持続力・持久力は問題なし、④社会行動能力について後遺障害等級9級相当という場合、最も重篤な①意思疎通能力の障害に着目して、後遺障害等級5級の認定を行うことになります。
なお、高次脳機能障害による障害が後遺障害等級3級以上に該当する場合には、以上の4能力に加えて、⑤介護の要否及び程度も踏まえて後遺障害等級認定を行うことになっています。
4能力の内容
①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
意思疎通能力は、職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうかという点をメインにして能力の判定が行われます。
具体的には、記銘・記憶力、認知力、言語力の側面から判断を行い、相手の話が理解できるか、単語は理解できるか、身振り手振りがあれば分かるか、自分の要望を相手に伝えられるか、何度か話してもらえたら理解できるのか、電話の内容を覚えていられるか・他人に伝えられるか、話す際に文法的な間違いはないか、言葉のチョイスは合っているかなどの要素から、意思疎通能力を7段階評価していきます。
7段階評価というのは、①障害なし・②能力をわずかに喪失・③能力を多少喪失・④能力を相当程度喪失・⑤能力を半分喪失・⑥能力を大部分喪失・⑦能力を全部喪失の7段階のことです。
②問題解決能力(理解力、判断力等)
問題解決能力は、作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるかどうかという点をメインにして能力の判定が行われます。
具体的には、判断力、集中力(注意の選択等)の側面から判断を行い、課題をどの程度実行できるか、1人で実行できるか、助言があれば実行できるか、手順が単純であれば実行できるか、作業が抽象的なものでなければ実行できるかなどの要素から、問題解決能力を7段階評価していきます。
③作業負荷に対する持続力・持久力
作業負荷に対する持続力・持久力は、一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定が行われます。
精神面における意欲、気分または注意の集中の持続力・持久力について判断がなされ、その際には、意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感を含めて判断されることになっています。
具体的には、予定外の休憩や注意喚起をするための監督が必要かどうか、何時間であれば支障なく働けるのかといった要素から、作業負荷に対する持続力・持久力を7段階評価していきます。
④社会行動能力(協調性等)
社会行動能力は、職場において円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定が行われます。
具体的には、主に協調性の有無や不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロールの低下による場違いな行動等)の頻度から、社会行動能力を7段階評価していきます。
高次脳機能障害の等級別の認定基準解説
後遺障害等級別第1級の3
第1級の3の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第1級の3認定基準
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身の回りの処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第1級の3認定の具体化
下記AかBのどちらかに該当すれば、後遺障害等級第1級の3が認定されます(労災補償障害認定必携第17版143頁参照)。
A 重篤な高次脳機能障害のため,食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
B 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため,常時介護を要するもの
後遺障害等級第2級の2の2
第2級の2の2の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第2級の2の2認定基準
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身の回りの処理の動作について、随時介護を要するもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第2級の2の2認定の具体化
下記A~Cのどれかに該当すれば、後遺障害等級第2級の2の2が認定されます(労災補償障害認定必携第17版143~144頁参照)。
A 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
B 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
C 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
後遺障害等級第3級の3
第3級の3の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第3級の3認定基準
「生命維持に必要な身の回りの処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第3級の3認定の具体化
①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力(協調性等)の4能力について、下記AかBにあてはまる場合には、後遺障害等級第3級の3が認定されます(労災補償障害認定必携第17版144頁参照)。
A ①~④の4能力のうち、いずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
B ①~④の4能力のうち、いずれか2つ以上の能力が大部分で失われているもの
高次脳機能障害の後遺障害等級第3級の3の具体例
ここでは、①~④の能力が、それぞれ全部失われた場合の具体例について記しています。全部失われるまでいかず、2つ以上の能力について大部分が失われた場合であっても後遺障害等級第3級の3は認定されますが、大部分喪失の具体例については後遺障害等級第5級の1の2の具体例をご覧ください。
①意思疎通能力が全部失われた例
・「職場で他の人とは意思疎通を図ることができない」場合
②問題解決能力が全部失われた例
・「課題を与えられても手順とおりに仕事を全く進めることだできず、働くことができない」場合
③作業負荷に対する持続力・持久力が全部失われた例
・「作業に取り組んでもその作業への集中を持続することができず、すぐにその作業を投げ出してしまい、働くことができない」場合
④社会行動能力が全部失われた例
・「大した理由もなく突然感情を爆発させ、職場で働くことができない」場合
後遺障害等級第5級の1の2
第5級の1の2の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第5級の1の2認定基準
「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第5級の1の2認定の具体化
①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力(協調性等)の4能力について、下記AかBにあてはまる場合には、後遺障害等級第5級の2の1が認定されます(労災補償障害認定必携第17版144~145頁参照)。
A ①~④の4能力のうち、1つの能力の大部分が失われているもの ※2つ以上になると後遺障害等級第3級の3となります。
B ①~④の4能力のうち、いずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
高次脳機能障害の後遺障害等級第5級の1の2の具体例
ここでは、①~④の能力が、それぞれ大部分失われた場合の具体例について記しています。大部分失われるまでいかず、2つ以上の能力について半分程度が失われた場合であっても後遺障害等級第5級の1の2は認定されますが、半分程度喪失の具体例については後遺障害等級第7級の3の具体例をご覧ください。
①意思疎通能力の大部分が失われている例
・「実物を見せる、やってみせる、ジェスチャーで示す、などのいろいろな手段と共に話しかければ、短い文や単語くらいは理解できる」場合
・「ごく限られた単語を使ったり、誤りの多い話した方をしながらも、何とか自分の欲求や望みだけは伝えられるが、聞き手が繰り返して尋ねたり、いろいろと推測する必要がある」場合
②問題解決能力の大部分が失われている例
・「手順を理解することは著しく困難であり、頻繁な助言がなければ対処できない」場合
・「1人で判断することは著しく困難であり、頻繁な指示がなければ対処できない」場合
③作業負荷に対する持続力・持久力の大部分が失われている例
・「障害により予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督を頻繁に行っても半日程度しか働けない」場合
④社会行動能力の大部分が失われている例
・「障害に起因する非常に不適切な行動が頻繁に認められる」場合
後遺障害等級第7級の3
第7級の3の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第7級の3認定基準
「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第7級の3認定の具体化
①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力(協調性等)の4能力について、下記AかBにあてはまる場合には、後遺障害等級第7級の3が認定されます(労災補償障害認定必携第17版145頁参照)。
A ①~④の4能力のうち、1つの能力の半分程度が失われているもの ※2つ以上になると後遺障害等級第5級の1の2となります。
B ①~④の4能力のうち、いずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
高次脳機能障害の後遺障害等級第7級の3の具体例
ここでは、①~④の能力が、それぞれ半分程度失われた場合の具体例について記しています。半分程度失われるまでいかず、2つ以上の能力について相当程度が失われた場合であっても後遺障害等級第7級の3は認定されますが、相当程度喪失の具体例については後遺障害等級第9級の7の2の具体例をご覧ください。
①意思疎通能力の半分程度が失われている例
・「職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解してもらうためには時々繰り返してもらう必要がある」場合
・「かかってきた電話の内容を伝えることに困難を生じることが多い」場合
・「単語を羅列することによって、自分の考え方を伝えることができる」場合
②問題解決能力の大半分程度が失われている例
・手順を理解することに困難を生じることがあり、対処するには時々助言が必要な場合
・1人で判断することは困難であり、対処するには時々助言が必要な場合
③作業負荷に対する持続力・持久力の半分程度が失われている例
・障害により予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督が時々必要であり、それになしには6時間程度しか働けない場合
④社会行動能力の半分程度が失われている例
・障害に起因する不適切な行動が時々認められる場合
後遺障害等級第9級の7の2
第9級の7の2の後遺障害等級認定基準
「神経系統の機能又は精神に障害を残し、労務に服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第9級の7の2認定基準
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第9級の7の2認定の具体化
①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力(協調性等)の4能力について、いずれか1つの能力の相当程度が失われているものについては、後遺障害等級第9級の7の2が認定されます(労災補償障害認定必携第17版145頁参照)。なお、2つ以上の能力の相当程度が失われると、後遺障害等級第7級の3の認定となります。
高次脳機能障害の後遺障害等級第9級の7の2の具体例
ここでは、①~④の能力が、それぞれ相当程度失われた場合の具体例について記しています。
①意思疎通能力の相当程度が失われている例
・「職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解してもらうためにはたまには繰り返してもらう必要がある」場合
・「かかってきた電話の内容を伝えることはできるが、時々困難を生じる」場合
②問題解決能力の相当程度が失われている例
・「手順を理解することに困難を生じることがあり、たまには助言を要する」場合
・「1人で判断することに困難を生じることがあり、たまには助言を必要とする」場合
③作業負荷に対する持続力・持久力の相当程度が失われている例
・「障害のために予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督がたまには必要であり、それになしには概ね8時間働けない」場合
④社会行動能力の相当程度が失われている例
・「障害に起因する不適切な行動がたまには認められる」場合
後遺障害等級第12級の12
第12級の12後遺障害等級認定基準
「局部にがん固な神経症状を残すもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第12級の12認定基準
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第12級の12認定の具体化
①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力(協調性等)の4能力について、いずれか1つ以上の能力が多少失われているもの≒困難はあるが概ね自力でできるものについて、後遺障害等級第12級の12が認定されます(労災補償障害認定必携第17版145~146頁,166頁参照)。
高次脳機能障害の後遺障害等級第12級の12の具体例
ここでは、①~④の能力が、それぞれ多少失われている場合≒困難はあるが概ね自力でできる場合の具体例について記しています。
①意思疎通能力の多少失われている例
・「職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、ゆっくり話してもらう必要が時々ある」場合
・「普段の会話はできるが、文法的な言い間違いをしたり、適切な言葉を使えないことがある」場合
②問題解決能力の多少失われている例
・複雑ではない手順であれば、たまに助言をもらえれば実行できるという場合
・抽象的でない作業であれば、たまに助言をもらえれば1人で判断することができ、実行できるという場合
③作業負荷に対する持続力・持久力の多少失われている例
・たまに休憩をしたり注意喚起のための監督をしてもらえたら、概ね8時間支障なく働けるという場合
④社会行動能力の多少失われている例
・障害に起因する不適切な行動がごくまれに認められる場合
後遺障害等級第14級の9
第14級の9後遺障害等級認定基準
「局部に神経症状を残すもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第14級の9認定基準
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの」
高次脳機能障害の後遺障害等級第14級の9認定の具体化
MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害ためわずかな能力喪失が認められるものについて、後遺障害等級第14級の9が認定されます(労災補償障害認定必携第17版146頁参照)。12級以上の後遺障害等級では、脳損傷のあることが画像上確認できないといけないのですが、後遺障害等級14級の9では、脳損傷の画像所見が必要ではないという点が大きく他の等級と異なります。
高次脳機能障害の後遺障害等級第14級の9の具体例
ここでは、①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力(協調性等)の4能力が、それぞれ、わずかに失われている場合≒多少の困難はあるが概ね自力でできる場合の具体例について記しています。
①意思疎通能力がわずかに失われている例
・「特に配慮をしてもらわなくても、職場で他の人と意思疎通をほぼ図ることができる」場合
・「必要に応じ、こちらから電話をかけることができ、かかってきた電話の内容をほぼ正確に伝えることができる」場合
②問題解決能力がわずかに失われている例
・「複雑ではない手順であれば、理解して実行できる」場合
・「抽象的でない作業であれば、1人で判断することができ、実行できる」場合
③作業負荷に対する持続力・持久力がわずかに失われている例
・「概ね8時間支障なく働ける」場合
④社会行動能力がわずかに失われている例
・「障害に起因する不適切な行動はほとんど認められない」場合
裁判による高次脳機能障害の後遺障害等級獲得
ここまで述べてきた高次脳機能障害の後遺障害等級の解説は、主に労働基準監督署や労働局の認定基準によるものです。
自賠責保険ほどではありませんが、労働基準監督署や労働局も、画像所見で明確に脳損傷が確認できなければ、高次脳機能障害として後遺障害等級認定することはほとんどありません。
これは、冒頭申し上げたアメリカをはじめとした医学界の見解とは異なるものですので、本来は、画像所見のみならず、各種検査項目を組み合わせて高次脳機能障害であるか否かの判定がなされなければいけません。
また、労災による高次脳機能障害の後遺症であると労働基準監督署や労働局に認められたとしても、その後遺障害等級認定が正しいとは限りません。
弁護士法人小杉法律事務所では、高次脳機能障害の後遺障害等級を裁判で勝ち取った事例が複数あります。
労働基準監督署の後遺障害等級認定に納得がいかないという方は、後遺症被害専門の弁護士に相談しましょう。
高次脳機能障害での後遺障害等級認定を受けるために必要な資料
画像検査所見
労災における高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、MRIやCT画像によって、脳の器質的病変に基づくものであることが医学的に裏付けられる必要があります。
頭部を受傷した事例では、緊急搬送先の病院や、最初の転院先の病院にて、MRI画像撮影やCT画像撮影が行われることが多いですが、労災事故当時の画像だけでは足りません。
経時的なMRI撮影やCT撮影によって、脳萎縮の程度等を確認する必要があります。
また、労災事故受傷直後には画像所見に検出されない高次脳機能障害もありますが、このような事例ですと、その後もMRI撮影やCT撮影を続けることによって、脳室拡大の他覚所見を獲得できる事例もあり、これにより高次脳機能障害での後遺障害等級認定を受けられることがあります。
いずれにしましても、受傷直後から症状固定に至るまでの間、定期的にMRI画像撮影やCT画像撮影を続けることが重要です。
神経心理学検査所見
高次脳機能には、知能、記憶力など様々なものがありますが、障害が疑われる機能によって、実施すべき検査が異なります。
知能の検査が必要な場合には、知能テストであるWAIS-R、長谷川式簡易痴呆スケールがよく用いられており、記憶力の検査が必要な場合には、記憶検査であるWMS-R、三宅式記銘検査などがよく用いられます。
こうした検査は、脳神経外科などの専門医によってなされますので、高次脳機能障害の疑いのある被害者の方については、専門の医師による神経心理学検査を実施するようにしてください。
後遺障害等級申請に必要な資料
労働基準監督署に後遺障害等級申請を行うには、必須資料がいくつかあります。
中でも、後遺障害等級認定では、障害診断書の記載内容が最も重視されます。
ただし、高次脳機能障害においては、この障害診断書のみから後遺障害等級認定が行われることはなく、高次脳機能障害特有の他の書式の重要度も高いです。
脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書
高次脳機能障害の後遺障害等級認定において最も重要な証拠の1つといえるのが、この「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」です。
これは脳神経外科医やリハビリ科など高次脳機能障害の治療に関する主治医に記載してもらうものですが、主なパートは下記のとおりです。
診断書作成医療機関における初診時所見(主訴及び症状)
高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、意識障害の状態など初診時の状況が重視されます。
現在までの治療の内容、期間、経過、その他参考となる事項
症状固定日までの治療内容・期間・経過等について、後遺障害等級認定上参考となる事項を記載してもらいます。
脳・せき髄等にかかる画像診断結果等(MRI、CT、X-P等による所見)
後遺障害等級別の解説のとおり、画像診断結果で脳損傷が確認できないと、後遺障害等級認定が14級の9を超えることはありません。
明かに脳損傷があるケースでは問題ないですが、判断が分かれるようなケースではこの欄の記載は非常に重要となります。
麻痺の範囲等
脳を損傷すると、高次脳機能障害のみならず、身体に麻痺などの後遺症が残ることもあります(「身体性機能障害」と呼ばれます。)。
高次脳機能障害の症状と、身体性機能障害の症状とを合わせて後遺障害等級認定がなされますので、この欄の記載も重要です。
ここの欄では、運動障害の範囲・麻痺の性状・起因部位・関節可動域の制限・徒手筋力テスト(MMT)・感覚障害の範囲・感覚障害の性状について記載してもらいます。
麻痺の程度
右上肢・左上肢・一下肢・両下肢について、それぞれ麻痺の程度を記載してもらいます。
麻痺の程度は4レベルに分かれていて、①高度・②中等度・③軽度・④軽微の4段階です。
高次脳機能障害
ここの欄では、高次脳機能障害の後遺障害等級レベルとして3級・5級・7級・9級・12級・14級・非該当のいずれに該当するかの指標を記してもらうことになります。
具体的には、①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力(協調性等)の4能力について、7段階評価をしてもらいます。
7段階評価というのは、障害なし/能力わずかに喪失/能力多少喪失/能力相当程度喪失/能力半分程度喪失/能力大部分喪失/能力全部喪失の7段階です。
また、この欄では「高次脳機能障害の状態について特筆すべき事項」を記載してもらうこともでき、ここの欄にWAIS-R、長谷川式簡易痴呆スケール、WMS-R、三宅式記銘検査などの神経心理学的検査結果を書いてもらうと、後遺障害等級認定上有利に働くことがあります。
介護の要否等
この欄は、後遺障害等級1級の3や、2級の2の2に該当するかどうかを判断するためのものです。
食事・入浴・用便・更衣・外出・買物の6項目について、それぞれ介護の要否を記入してもらいます。
そして、介護が必要とされた事項については、その原因となっている障害の状態を記載してもらいます。
日常生活状況報告表
「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」と並び、高次脳機能障害の後遺障害等級認定において最も重要な証拠の1つといえるのが、この「日常生活状況報告表」です。
脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書は主治医が記載するものですが、この日常生活報告は、家族又は介護者が記載するものです。
日常生活状況報告表は、下記の54の質問から構成されています。
1 食事は1人で食べることができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
2 トイレは1人で使うことができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
3 衣服を1人で着ることができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
4 小便をもらしますか | しない 時々ある 頻繁にある |
5 間に合わずに小便をもらすことがありますか | しない 時々ある 頻繁にある |
6 大便をもらしますか | しない 時々ある 頻繁にある |
7 入浴は1人ですることができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
8 何をするにも指示が必要ですか | 不要 時々必要 頻繁に必要 |
9 洗顔や整髪を1人ですることができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
10 家の中を一人で移動することができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
11 1人で外出することができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
12 1人で買い物をすることができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
13 金銭の管理をすることができますか | できる どうにかできる 援助が必要 |
14 かかってきた電話の内容を伝えることができますか | できる 多少できる できない |
15 1人で電話をかけることができますか | できる どうにかできる できない |
16 人の話を聞いて、すぐに理解できますか | できる 多少できる できない |
17 自分の考え方を相手に伝えることができますか | できる 多少できる できない |
18 他人と話しが通じますか | 通じる 多少通じる 通じない |
19 家族と話しが通じますか | 通じる 多少通じる 通じない |
20 なめらかに話しができますか | できる どうにかできる できない |
21 話しがまわりくどいですか | いいえ くどいこともある くどい |
22 適切な表現を使えますか | できる どうにかできる できない |
23 今日は何月何日かわかりますか(前後1日は正解) | わかる だいたいわかる わからない |
24 同じことを何度も聞き返すことがありますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
25 数分前の出来事や聞いたことを忘れますか | 忘れない 時々忘れる よく忘れる |
26 昨日の出来事を覚えていますか | 覚えている 多少覚えている 覚えていない |
27 事故以前のことを覚えていますか | 覚えている 多少覚えている 覚えていない |
28 知り合いの人の名前を忘れがちですか | 忘れない 時々忘れる よく忘れる |
29 一桁のたし算はできますか | できる どうにかできる できない |
30 簡単な買い物での釣りの計算はできますか | できる 多少できる できない |
31 手順とおりに作業ができますか | できる 多少できる できない |
32 新しいことを覚えて身につけることができますか | できる 多少できる できない |
33 1人で物事の判断ができますか | できる 多少できる できない |
34 一度気になるとこだわってしまいますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
35 ひとつのことを続けることができますか | できる 多少できる できない |
36 すぐに泣いたり笑ったり怒ったりしますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
37 わずかなことで興奮しますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
38 わずかなことでいらいらしますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
39 興奮すると乱暴しますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
40 場所をわきまえず怒って大声を出しますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
41 家族や周囲の人とトラブルが多いですか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
42 すべて自分中心でないと気に入らないですか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
43 わけもなくはしゃぐことはありますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
44 気分が沈みがちですか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
45 家に閉じこもることがありますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
46 大きな音などうるさがりますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
47 めまいやふらつきがありますか | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
48 支え無しに立っていることができますか | できる どうにかできる できない |
49 歩くとふらつきますか | ふらつかない 多少ふらつく ふらつく |
50 右手が不自由で動きませんか | 動く うまく動かない 動かない |
51 左手が不自由で動きませんか | 動く うまく動かない 動かない |
52 右足が不自由で動きませんか | 動く うまく動かない 動かない |
53 左足が不自由で動きませんか | 動く うまく動かない 動かない |
54 その他支障がありますか( ) | ほとんどない 時々ある 頻繁にある |
その他医学的意見書
以上が高次脳機能障害の後遺障害等級認定における必要な資料となりますが、事例によっては、個別に医学的意見書を取り付けることがあります。
弁護士法人小杉法律事務所では、個別の医学的意見書を取り付けて高次脳機能障害の後遺障害等級認定を受けた事例が複数ございます。
・医師の意見書を独自に取り付けて高次脳機能障害1級を獲得した事例
高次脳機能障害以外の後遺障害等級
高次脳機能障害の事例では他の後遺障害についても等級認定がなされることが多い
高次脳機能障害となってしまった事例というのは、脳損傷を来すような激しい労災事故被害に遭っているということですので、高次脳機能障害のみの後遺症が生じているということはあまりなく、他の後遺症についても発生していることが多いです。
高次脳機能障害は脳神経外科などの主治医によって後遺障害診断がされますが、その他にも、眼科・耳鼻咽喉科・口腔外科・歯科・整形外科・形成外科といった他の専門医にも後遺障害診断書を作成してもらわなければならない事例が多いです。
高次脳機能障害が最も重篤な後遺症となっていて、他の後遺症については後遺障害診断を忘れていたという事例も多く見られますので、注意が必要です。
眼の後遺障害
高次脳機能障害の事例では、労災事故によって頭を打っていますから、その際に眼の付近を受傷しているといったこともよくあります。
この場合、視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害、外傷性散瞳についても後遺障害等級認定の可能性があります。
また、眼の付近を受傷していなくても、脳の後頭葉を受傷するなどして、脳損傷由来の眼の後遺症が生じることもあります。
高次脳機能障害の被害者の方で、眼にも症状がある事例では、眼科での診察を忘れないようにしましょう。
耳・鼻の後遺障害
高次脳機能障害の事例では、労災事故によって頭を打っていますから、その際に耳や鼻を直接受傷しているといったこともあります。
この場合、聴力障害、耳鳴、平衡機能障害、嗅覚障害についても後遺障害等級認定の可能性があります。
また、耳や鼻の付近を受傷していなくても、脳の側頭葉を受傷するなどして、脳損傷由来の聴覚の後遺症が生じることもあります。
高次脳機能障害の被害者の方で、耳の障害や、耳鳴・めまい・嗅覚異常といった症状がある事例では、耳鼻咽喉科での診察を忘れないようにしましょう。
口・顎・歯の後遺障害
高次脳機能障害の事例では、労災事故によって頭を打っていますから、その際に顎や口付近を直接受傷しているといったこともあります。
この場合、そしゃく障害、言語障害、歯牙障害についても後遺障害等級認定の可能性があります。
また、口の付近を受傷していなくても、脳の側頭葉を受傷するなどして、脳損傷由来の言語障害・味覚障害の後遺症が生じることもあります。
高次脳機能障害の被害者の方で、そしゃく障害、言語障害、歯牙障害、味覚障害といった症状がある事例では、口腔外科や歯科での診察を忘れないようにしましょう。
醜状障害
高次脳機能障害の事例では、労災事故によって頭を打っていますから、頭や顔に傷痕が残ってしまっているということがよくあります。
労災事故による傷痕だけでなく、手術痕も後遺障害等級の対象になります。
醜状障害は忘れられがちな後遺障害等級ですので注意が必要です。
なお、醜状障害の専門医は形成外科等になるでしょうが、醜状障害については脳神経外科など高次脳機能障害の後遺障害診断の際に一緒に書いてもらえることが多いです。
その他骨折などによる後遺障害等級
高次脳機能障害の事例では、労災事故によって脳を損傷するほどの傷害を受けていますので、腕や足など、頭部以外にも骨折被害等が生じていることが多いです。
骨折被害は事例によっては高次脳機能障害に匹敵するほどの後遺障害等級認定がなされますので、脳神経外科のみならず、整形外科での治療も受け、適切な後遺障害診断書を作成してもらうようにしましょう。
高次脳機能障害での後遺障害等級認定を受けると損害賠償金や労災支給金はどのように変わるか?
高次脳機能障害による後遺障害等級認定を受けると損害賠償金は大きく変わります
高次脳機能障害による後遺障害等級は1級~14までありますが、1級など重度後遺障害の等級認定がなされると損害賠償金は億単位になることもあり、そこまでいかなくとも12級以上の後遺障害等級認定がなされると数千万円単位の損害賠償金となることがあります。
過去の裁判例上の損害賠償請求訴訟判決認容額高額ランキングを見ても、その多くは高次脳機能障害による後遺障害事例となっています。
高次脳機能障害による後遺障害等級認定を受けると、その等級によって慰謝料額や逸失利益が増えるといった効果があるのですが、他にも「請求できる損害費目が増える」というメリットがあります。
ここでは、通常は認められづらいが、高次脳機能障害による後遺障害等級認定によって認められやすくなる損害費目について紹介していきます。
なお、後遺障害等級に応じた慰謝料額や逸失利益の労働能力喪失率など損害の詳細についてはこちらのページをご覧ください。
症状固定後の治療費や将来治療費
損害賠償請求における治療費というのは、症状固定までの期間のみ支払われるのが原則となっています。
治療によって完治したのでなければ、症状固定日以降も被害者は後遺症に悩まされることになりますが、この後遺症についての損害賠償請求は、後遺症慰謝料や後遺症逸失利益によって賠償がなされるべきで、症状固定後の治療費や将来治療費は認められないというのが原則になっています。
ところが、高次脳機能障害により後遺障害等級認定がなされた場合には、例外的に、症状固定後の治療費や将来治療費も支払ってもらえることがあります。
例えば、遷延性意識障害など後遺障害等級第1級の3に該当する後遺症の場合には、生命維持のために症状固定後の治療が必要となりますから、当然に症状固定後の治療費が認められます。
また、後遺障害等級第2級の2の2以下の後遺症の場合であっても、リハビリを続けなければ、症状が悪化してしまうといったことは多くありますので、症状固定後の治療費や将来治療費が認められることがあります。
ただし、高次脳機能障害であれば、必ず症状固定後の治療費や将来治療費が支払われるというわけではなく、医学的意見書による裏付けが必要とされる事例もありますので、症状固定後の治療費や将来治療費についてお悩みの方は、後遺症被害専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
なお、将来治療費の計算では、将来治療費のみで1000万円を超える損害賠償金になることがあります。
付添看護費用(入院付添費・通院付添費・自宅付添費・将来介護費用)
高次脳機能障害の被害に遭われてしまった場合というのは、入院時・通院時・自宅での生活時にご家族による付添いが必要となる事例が多いです。
こうした事例では、入院付添費・通院付添費・自宅付添費・将来介護費用といった損害費目を追加して請求していくことが可能です。
特に将来介護費用は、それだけで1億円近い損害賠償金になることがあるなど高額な損害費目の1つとされています。
将来雑費
高次脳機能障害となると、排泄関係でおむつが必要となったり、食事の関係でとろみをつけるものが必要となったりなど雑費の支出を余儀なくされることがあります。
1つ1つは大きな出費ではなかったとしても、それが生涯続くとなると馬鹿にならない金額になってしまいます。
これらの雑費の出費については、平均余命までの期間を将来雑費として請求していくことができます。
将来雑費のみで2000万円を超えることもありますので、注意する必要があります。
装具・器具等購入費
高次脳機能障害となると、杖・車椅子・装具・ベッドなど様々な装具・器具の購入を余儀なくされることがあります。
これらは、一度購入すると一生使えるというわけではなく、何年かおきに買換えが必要となってきます。
そこで、装具・器具等購入費については、それぞれの耐用年数に応じて、平均余命までの期間の買換え分を請求していくことができます。
家屋改造費・自動車購入費・転居費用等
高次脳機能障害となると、労災事故前まで居住していた住居では暮らすことができず、手すりを付けたり、段差を解消したりするなどの家屋改造を余儀なくされる事例があります。
また、家屋改造ができない住居に済んでいた場合には、介護用の住居に転居したりすることもあります。
加えて、車いすのまま乗車できる車両など、自動車を購入したり改造したりする必要も出てきます。
この家屋改造費や自動車購入費については、他の家族の生活の便益になるなどの理由で、満額認定されることが少ないですが、弁護士法人小杉法律事務所では、介護状況の調査を詳細に行って家屋改造費を満額認定された解決事例が複数あります。
後見費用等
重度の高次脳機能障害を負ってしまい、家庭裁判所による後見人の選任が必要となった事例では、成年後見開始の審判手続費用などを損害として請求していくことができます。
近親者慰謝料
慰謝料というのは被害者本人に発生するものですが、死亡事故では近親者慰謝料というのが認められています。
そして、高次脳機能障害の事例でも、死亡事故の場合にも比肩し得べき精神上の苦痛を受けたときは、民法第709条,710条に基づいて、ご家族自身が近親者慰謝料を請求できるとされています(最高裁判所昭和33年8月5日判決 最高裁判所民事判例集第12巻12号1901頁)。
労災からの障害補償給付の支給額も変わる
以上は後遺障害等級によって損害賠償金額が変わることの説明をしてまいりましたが、損害賠償金だけでなく、労災から支給される障害補償給付額も後遺障害等級によって変わります。
特に大きいのは、後遺障害等級7級以上の認定がなされると、「年金」がもらえるようになります。
「年金」ですので、毎年お金を振り込んでもらえるということです。
脳損傷の画像所見さえ認められれば、高次脳機能障害の後遺障害等級認定がなされるのが通常ですので、あとは程度問題ということにあります。
程度問題ですので、日常生活状況報告表の書き方などによって、7級になったり、9級になったりします。
日常生活状況報告表の書き方もポイントがありますので、労災被害専門の弁護士事務所にお問い合わせすることをお勧めいたします。
弁護士による高次脳機能障害の後遺障害等級認定解説まとめ
以上長々と高次脳機能障害の後遺障害等級について解説をしてきましたが、ここに書いてある事項でもまだまだ足りないくらい高次脳機能障害の後遺障害等級認定は複雑で難しいものです。
労災事故により高次脳機能障害に悩まれている方については、労災被害専門の弁護士に法律相談されることをおすすめします。
なお、弁護士法人小杉法律事務所は、高次脳機能障害弁護団にも所属しており、高次脳機能障害の家族会と連携をするなど高次脳機能障害を専門的に取り扱っております。
無料で法律相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
電話相談やzoomでのweb相談も可能です。
また、高次脳機能障害の方であれば、ご自宅・介護施設・入院中の病院などへ訪問相談をさせていただくことも可能です。
47都道府県、全国どこでも対応しております。